デジタル大辞泉
「ウィルムス腫瘍」の意味・読み・例文・類語
ウィルムス‐しゅよう〔‐シユヤウ〕【ウィルムス腫瘍】
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家庭医学館
「ウィルムス腫瘍」の解説
うぃるむすしゅよう【ウィルムス腫瘍 Wilms Tumor】
[どんな病気か]
ウィルムス腫瘍は、腎臓(じんぞう)で発生する悪性腫瘍で、腎芽腫(じんがしゅ)とも呼ばれます。
子どもの悪性腫瘍の約5%を占める病気で、1~4歳の子どもに多くみられます。女児に発症することが、やや多いようです。
左右の腎臓のどちらにも同じ程度に発生し、約5%の患者さんでは、両側に腫瘍がみられます。また、20~30%の患者さんでは、家族に同じ病気がみられるなど、遺伝的な素因が認められます。
しばしば、無虹彩(むこうさい)(目の虹彩が欠けている)、泌尿器系(ひにょうきけい)の形態の異常、精神発達の遅れなど、生まれつきの先天異常や染色体異常(せんしょくたいいじょう)をともなうことがあります。
[症状]
腫瘍が、かなり大きくなるまで、症状はなかなか現われません。
多くの場合、まず、腫瘍の増大にともなって腹部がふくれたり腫(は)れたりすることで気づきます(全患者さんの約4分の3)。
血尿(けつにょう)は、約20%の患者さんにみられる程度で、ときに肉眼でもわかるような血尿が出ます。ついで、腹痛、腹部不快感などの症状が現われます。
また、約3分の1の患者さんでは、腫瘍による高血圧症がみられます。
この病気と、ただ1つまぎらわしいものに、神経芽細胞腫(しんけいがさいぼうしゅ)(「神経芽細胞腫」)がありますが、この腫瘍の特徴は、表面が凹凸・不整で、からだの左右中央の正中線を越えて、反対側にまで大きく腫れることがある点です。
一方、ウィルムス腫瘍の特徴は、表面がなめらかで、腫瘍が正中線を越えることはまれです。
●受診する科
子どものおなかが異様に大きいと感じたら、まず小児外科または泌尿器科を受診しましょう。
この病気は、死亡率の高い病気であり、手術以外に、抗がん剤の大量投与も必要で、からだが衰弱し、感染症などにかかりやすくなります。
したがって、無菌的な環境であるクリーンルーム施設を備えた病院が望ましいといえましょう。
[検査と診断]
ウィルムス腫瘍では、尿にも血液にも、この病気でしか現われない物質(腫瘍マーカー)というものは見つかりません。
したがって、おもに超音波やX線などによる画像検査(CT、MRI、X線による血管造影)で見つけるしかありません。
X線造影などでは、腫瘍内に血管の新生が多数みられるのが特徴です。
腫瘍細胞が、血液やリンパ液に入って、リンパ節のほか、肺、肝臓、骨、脳などに転移(血行性転移(けっこうせいてんい))をおこすので、CTや骨シンチグラフィーなどの画像検査によって、転移の有無を調べ、病状を正確につかむことがたいせつです。
[治療]
手術が治療の中心となりますが、その場合は、腎臓を含めて腫瘍をまるごと切除することになります。
腫瘍が転移しているかどうか、手術して腫瘍が残ることはないか、腫瘍が腎臓の外に波及しているか、リンパ節転移はないか、ほかの臓器に血行性転移があるか、両側の腎臓に腫瘍があるかなどによって、病期が細かく分けられています。
この病期の分類、年齢などを考慮して、手術、抗がん剤の使用による化学療法、腫瘍に放射線を照射する治療を組み合わせて治療プランがつくられ、それにそって治療が進められます(集学的治療(しゅうがくてきちりょう)と呼ばれます)。
どの病期であっても、徹底した集学的治療を、長期にわたって(約15か月)受ける必要があります。
近年、ウィルムス腫瘍の治療成績は非常に向上しています。
術後、何年生きられるかということは、患者さんの病期と腫瘍の性質(病理組織像)に深くかかわっています。きわめて悪性のもの(全体の約12%)は、手術しても約50%が亡くなってしまいますが、それ以外の、比較的悪性度の低いもの(全体の88%)では、手術して亡くなる患者さんは約7%で、よい成績が得られています。
出典 小学館家庭医学館について 情報
ウイルムス腫瘍
ウイルムスしゅよう
Wilms' tumor
(子どもの病気)
腎臓にできるがんで、子どものおなかのがんとしては神経芽細胞腫に次いで多くみられ、ほとんどが5歳以内に発病します。腎臓の未熟な組織から発生するので腎芽腫とも呼ばれ、大人の腎臓がんとは根本的に違います。
2つある腎臓のうち片側に起こるのがほとんどですが、左右両側にできることもあります。無虹彩症や半身肥大症、腎の奇形、尿道下裂などの生まれつきの奇形と合併しやすいところから、染色体異常が原因として考えられています。
神経芽細胞腫と同じように、おなかに硬いしこりがあることで発見されます。病気が進行すると近くの臓器へ広がったり、肺に転移することが多く、リンパ節、肝臓、骨などに転移することもあります。治療法の進歩によって、早い時期に見つかればほとんどが治るようになりました。
しこりがかなり大きくなるまで症状はあまりみられず、ほとんどが入浴時などに家族が偶然におなかのはれやしこりに気がついた時に発見されます。わき腹に表面が滑らかで硬いしこりとして触れる特徴があります。
一般に、しこりに痛みはありませんが、おなかを痛がったり、吐き気が起こったり、血尿が出ることもあります。また、不機嫌、顔面蒼白、食欲低下、体重の減少、発熱、高血圧などもみられます。肺に転移すると胸部X線写真で丸い不透明な影が認められます。
手術でがんのできている腎臓を摘出します。早期発見の場合には腎臓の摘出後に抗がん薬による治療が続けられ、ほぼ完治します。転移がある場合でも、腫瘍がある腎臓を摘出して抗がん薬や放射線による治療を行うことでかなり治ります。
両方の腎臓に腫瘍ができた場合、可能であれば腎臓を摘出せず、抗がん薬による治療で腫瘍を小さくしてから腫瘍のみを切除します。
大人の腎臓がんと違って肺への転移が致命的にはなりません。片側の腎臓は摘出されてなくなってしまいますが、残った腎臓だけで十分機能は果たすことができます。
神経芽細胞腫と同じく、おなかに硬いしこりやふくらみがないかどうか、普段から観察してください。子どものおなかが異様に大きいと感じたり、腹痛を訴えて血尿がみられたら、ウイルムス腫瘍の可能性もありますので、すぐに小児科、あるいは泌尿器科を受診します。
進行は比較的ゆっくりですが、肺やリンパ節に転移しやすく、他のがんと同様に早期発見が大切です。治癒率の高いがんですから、進行していることがわかっても希望を捨てないで治療を受けてください。
片岡 哲
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
百科事典マイペディア
「ウィルムス腫瘍」の意味・わかりやすい解説
ウイルムス腫瘍【ウイルムスしゅよう】
腎芽腫とも呼ばれる,乳幼児に発生する悪性腎腫瘍。胎児期に腎臓を形成するはずの細胞がなんらかの原因で腎臓にならず,癌(がん)や肉腫に変化してしまうために発生するとされている。大部分は5歳以下で発病し,初発症状が腹部の腫脹程度と少ないうえ,進行が早いため肺や骨へ転移する例が多い。腫瘍のできている腎臓の摘出手術のほか,化学療法,放射線治療などが併用される。
→関連項目小児癌
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ウィルムス腫瘍
うぃるむすしゅよう
腎臓(じんぞう)の悪性腫瘍である腎芽細胞腫のことで、一般に記載者の名を冠してウィルムス腫瘍とよばれる。神経芽細胞腫に次いで多くみられる小児の腹部腫瘍で、大部分は4歳以前に発症する。親が偶然に腹部の腫瘤(しゅりゅう)として気づく場合が多く、出生時にすでにみられることもある。転移は肺がもっとも多く、ついで肝、リンパ節、骨、骨髄などである。早期診断によって早く摘出することがたいせつで、2歳未満では予後がよい。治癒率は転移がなければ約80~90%、転移があると約50%になる。腫瘍の摘出のほか、放射線療法と化学療法(アクチノマイシンDなど)が併用される。
[坂上正道]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
ウィルムス腫瘍
ウィルムスしゅよう
Wilms' tumor
ドイツの外科医 M.ウィルムス (1867~1918) によって発見された,乳幼児の腎臓に発生する悪性腫瘍。腹部の腫瘤として発見されることが多く,非常に大きくなる。多くは両側に起り悪性だが,近年は手術と化学療法あるいは放射線療法の併用で,よい成績が上げられるようになってきた。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のウィルムス腫瘍の言及
【癌】より
…他方,固型癌(白血病に対して一般の癌をいう)に対して化学療法はまだ十分成功を収めているとはいえない。しかし,子どもの横紋筋肉腫,ユーイング腫瘍,ウィルムス腫瘍,妊娠時に発生する悪性絨毛(じゆうもう)上皮腫などには,著しい効果を収めている。 化学療法剤としては,分裂細胞のDNAを傷損するもの(シクロホスファミドなどのアルキル化剤,白金,アドレアマイシンなど),代謝拮抗剤(メトトレキセート,5‐FU,6‐MP,アラ‐Cなど),細胞分裂阻害剤(ビンクリスチン,ビンブラスチンなど),DNA合成阻害剤(アクチノマイシンなど),癌の栄養を阻害する酵素(L‐アスパラギナーゼなど),ホルモン剤(副腎皮質ホルモン,アンドロゲン,エストロゲンなど)など,さまざまな異なった機序のものがある。…
【小児癌】より
…急性白血病と同様に頭蓋内浸潤を起こすことがある。 神経芽腫,ウィルムス腫瘍には,手術と,その後の再発を防ぐための放射線照射や化学療法を患児の年齢,腫瘍組織の病型などに応じて選択する。肝芽腫,肝臓癌は,成人と異なり肝硬変を伴っていることはほとんどないので,肝臓を切除して治癒も期待される。…
※「ウィルムス腫瘍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」