改訂新版 世界大百科事典 「腟」の意味・わかりやすい解説
腟 (ちつ)
vagina
子宮と外性器(外陰部)の間をつなぐ長さ約8cmの前後に平たい管で,尿道の後ろ,直腸の前にある。交接器と産道の役目をする。子宮腟部を輪状にとりまく腟腔の上端部を腟円蓋といい,下端は腟前庭に開く。腟の粘膜はひだが多く,重層扁平上皮と粘膜固有層から成り,粘膜の外側には平滑筋層が発達している。上皮は150~200μmと厚く,角化しない。上皮細胞のうち,とくに表層のものはグリコーゲンを含み,上皮の剝脱(はくだつ)によって腟腔に出る。腟腔にはデーデルライン杆菌がおり,この細菌の作用によってグリコーゲンが分解されて乳酸を生ずるので,腟内はつねに酸性に保たれている。これは腟内における病原菌感染を防ぐのに役立ち,腟自浄作用といわれる。射精された精子は酸性の環境からアルカリ性の子宮頸管(このアルカリ性は子宮頸腺の分泌物による)のほうに向かうから,この腟内の酸性は,精子の走性を助ける役割も果たしている。
→性器
執筆者:藤田 尚男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報