日本大百科全書(ニッポニカ) 「自動周波数制御」の意味・わかりやすい解説
自動周波数制御
じどうしゅうはすうせいぎょ
automatic frequency control
交流を発生している電源の周波数が、ある設定された値から逸脱しようとするとき、それを検知して自動的に設定値に戻し、つねに一定の周波数の交流を発生させるようにすることをいう。略してAFCともいう。たとえば、発電所では発電機を一定の速度で回転させて一定の周波数の交流電力を発生しているが、電力の需要が急増して負荷が増大すると回転数が落ちて周波数が低下してしまう。このような周波数の低下がおこらないように、自動的にもとの周波数を保つようにすることをいう。
電波通信では、送信機などの搬送周波数が周囲温度や電圧の変動の影響を受け、許容されている周波数範囲から逸脱しようとするのを自動的に修正することをいう。レーダーの送信部に用いるマグネトロンのわずかな周波数変動を補償するために、レーダー受信機の局部発振周波数を送信源の周波数変動に追随して変動させ、差の周波数である中間周波数を一定に保つ回路、およびスーパーヘテロダイン受信機で、局部発振器の発振周波数が変動して中間周波数に誤差を生じないように、その周波数の変動を修正する回路などに使用される。
制御の方法は一種のフィードバック制御であって、周波数の変化を直流電圧の変化に変換する周波数弁別器と、この電圧の変化を感知して発振回路を構成するインダクタンス(誘導係数)やキャパシタンス(静電容量)を変化させて、発振周波数を修正する電圧制御発振器(VCO)とで構成されている。1960年代後半には、マイクロ波を使用する高速度のデータ通信が行われるようになり、当時はまだ高い周波数の直接の発振が不安定であったこともあって、AFCの使用がシステムの実現に不可欠とされた。この当時は、クライストロン(速度変調管)という特殊真空管がマイクロ波通信機器やレーダー受信機の局部発振器として使用されていたが、マイクロ波帯でのAFCのために、周波数のずれの大きさをサーボモーターの回転角に変換し、その回転角を歯車によってクライストロンの反射電極調節ネジに伝達して自動周波数制御を果たしたのである。クライストロンの発振周波数が陰極と陽極間の距離によって決定するために、機械的な制御を必要としたのであった。
1980年代以降、マイクロ波帯の周波数の発振には、もっぱらガンダイオードが使用されている。発振の安定度がよく変動が少ないのでAFCの出番がないようである。短波以下の周波数では、発振器自体が改良され温度制御水晶発振器(TCXO)のように、周囲温度が変化しても発振周波数がほとんど変化しないような、安定化機能をもたせたきわめて小型な発振器が製造されるようになった。クォーツと称する腕時計が何年間も調節しないですむのは、その発振周波数が安定しているからにほかならない。腕時計に入るような小型の発振器の発振がきわめて正確になった証拠なのである。そして、その1個のTCXOから、さらに、これと同等の周波数安定度を有する多数の周波数を合成することができる周波数シンセサイザーが発明されたこともあって、自動周波数制御による周波数安定化の需要は減少しつつある。
[石島 巖]