自由電子の励起状態間の遷移を用いたレーザー。光速に近い速度をもつ電子ビームでの光の誘導散乱を利用してレーザー光の増幅・発振を行わせるもので、一般のレーザーのように物質のもつポテンシャル場で電子が束縛されないので、発振光の波長は一定ではなく、波長可変のレーザーとなる。1953年に提唱されたが、実際の発振は77年で、スタンフォード大学のグループが線形加速器から43MeVの電子ビームを超伝導コイルでつくったヘリカル磁場共振器に放射して、波長3.41マイクロメートルのレーザーを実現した。その後、静磁場中のサイクロトロン振動によりパンチングした電子によるミリ波域のサイクロトロン・メーザー、ストーレージリングを用いた赤外から紫外の自由電子レーザーなどが実現されている。高エネルギー密度と波長可変性とを生かし、半導体や高分子などの表面処理や選択的化学反応、新物質の創出などに期待される。
[岩田倫典]
略称FEL.光速度近くまで加速した電子ビームを,ウィグラ磁界とよばれる周期的磁界中に入射し,磁界によって振動する電子からの放射光と電子の振動位相を合わせることにより,光増幅を行わせて発振させるレーザー.通常のレーザーとは原理的に異なる.放射光の波長は電子の運動エネルギー,ウィグラの周期および磁界強度で制御できるので,発振波長は原理的にはX線からミリ波まで連続的に変化させることができるが,実際には,用いる電子加速器の能力の限界などのため,1台の装置ですべての波長をまかなうことはできない.現在,紫外光の発振が行われ,X線FELの開発研究が進められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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