誘導放出(読み)ユウドウホウシュツ(その他表記)stimulated emission

デジタル大辞泉 「誘導放出」の意味・読み・例文・類語

ゆうどう‐ほうしゅつ〔イウダウハウシユツ〕【誘導放出】

あるエネルギー準位にある原子または分子が、外部からの電磁波を受け、その強さに比例して、位相周波数も同じ電磁波を放出する現象誘導放出が自然放出吸収を上回ると電磁波が増幅され、メーザーレーザーに利用される。誘導放射

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精選版 日本国語大辞典 「誘導放出」の意味・読み・例文・類語

ゆうどう‐ほうしゅつイウダウハウシュツ【誘導放出】

  1. 〘 名詞 〙 定常状態にある原子が、ある振動数の光を吸収して励起した状態にあるとき、その振動数の光を当てると、元の状態への遷移が促進されて同じ振動数の光を放出する現象。レーザーに利用される。

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改訂新版 世界大百科事典 「誘導放出」の意味・わかりやすい解説

誘導放出 (ゆうどうほうしゅつ)
stimulated emission

励起状態にある原子や分子が,外から入射した光(電磁波)の刺激によって新たに光を放出し,エネルギーの低い状態に移る現象。自然放出と共存する過程であり,また光の吸収はこの逆過程である。誘導放出の起こる確率は入射光の強度に比例し,光を光子の集りとみたとき光子の数をn(1モード当り)とすれば,その確率は自然放出の確率のn倍になる。誘導放出は,入射光の光の電場によって強制振動を受けた原子・分子内の電荷が同じ波長の光を発生する現象として理解できるが,正しい説明は量子力学によらねばならない。誘導放出の現象自体は古くから知られていたが,それが光の増幅作用であることに着目し,これを積極的に利用して位相のそろったコヒーレントな光を実現したのがレーザーである。誘導放出はつねに吸収と共存し,物質のふつうの状態では吸収のほうが強くて誘導放出は表に現れない。しかし,特殊な励起を行うとその関係が逆転し,誘導放出が打ち勝ってレーザーとなる。光を波として表すと,誘導放出によって新たに生ずる光の位相は,原子,分子の初期条件には関係なく入射光の位相と特定の関係をもつ。この性質がレーザーによってコヒーレントな光が生ずる要因となる。超放射は誘導放出によるレーザー作用とよく似た現象であるが,本質的には同じ物理的起源の異なる現れ方であるとする見方もある。
自然放出
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘導放出」の意味・わかりやすい解説

誘導放出
ゆうどうほうしゅつ
stimulated emission

誘導放射ともいう。電磁波(光)は、励起された電子や原子が下位のエネルギー準位に遷移する場合に放出される。この場合の光は、ある一定の確率で自然に放出され、その場合は自然放出とよばれる。これに対して、励起された電子や原子が上位のエネルギー準位に多数存在するような状態(反転分布という)のところに外部から電磁波が入射されると、それを刺激として入射した電磁波と同じ周波数・位相・進行方向の電磁波が同時に多数放出される。すなわち光が増幅されることになる。この現象が誘導放出である。レーザーの発振過程で利用される。

[山本将史 2022年7月21日]

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百科事典マイペディア 「誘導放出」の意味・わかりやすい解説

誘導放出【ゆうどうほうしゅつ】

定常状態にある原子や分子が,外から入射した光(電磁波)の作用によって光を放出して他のエネルギーの低い定常状態に移る現象。光を吸収して他のエネルギーの高い定常状態に移る現象(吸収)は誘導放出の逆過程で,吸収によって励起された原子または分子は,自然放出によって光を放出するので,誘導放出は自然放出・吸収と共存する。ふつうの状態では吸収・自然放出のほうが強く起こるが,特殊な励起によって誘導放出が自然放出や吸収よりも強く起こるようにすることができる。こうして誘導放出される光は入射光と周波数・位相がともに同じであり,位相のそろったコヒーレント(可干渉性)な光が得られ,メーザーレーザーに応用される。
→関連項目光増幅器量子条件

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「誘導放出」の意味・わかりやすい解説

誘導放出
ゆうどうほうしゅつ
induced emission; stimulated emission

エネルギー準位の間の遷移の過程の1つ。電磁波が物質に作用したとき,物質を構成している粒子が電磁波に誘導されて量子エネルギーを失い,その分だけ電磁波のエネルギーが増加する現象。離散的なエネルギー準位 EiEj(EiEj) をもった粒子に EjEihνji ( h はプランク定数,νは振動数) の関係を満たす振動数の電磁波が入射すると,粒子はこれに誘導されて EjEi の遷移を起し,光量子 hνji を放出する。逆過程 EiEj の場合,粒子は光量子を吸収し,これを誘導吸収という。適当なポンピングにより誘導放出を誘導吸収より多くしてやれば入射電磁波が増幅される。これを応用して,量子エレクトロニクスでは光などの電磁波を増幅発振する。レーザーはその一例である。

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化学辞典 第2版 「誘導放出」の解説

誘導放出
ユウドウホウシュツ
stimulated emission, induced emission

誘導放射ともいう.原子(分子)が励起状態におかれているときに光(電磁波)が入射すると,光の振動数νと,励起状態(E1)とそれから光の放出による遷移が可能な低エネルギーの状態(E2)との間のエネルギー差

ΔEE1E2
との間に,

ΔEhν
の関係が満たされると,光(電磁波)の作用により原子(分子)は入射した光と同じ振動数,偏光成分,進行方向の光を放出して低エネルギーの状態に遷移する.これを誘導放出という.誘導放出を行う確率は入射する光の強度(光子の個数)に比例し,また光と原子の相互作用の大きさに関係する.この誘導放出は光の吸収の逆の現象であって,その確率はまったく同じである.いうまでもなく,励起状態にある原子(分子)は誘導放出以外に,入射する光が存在しなくても光を放出することが可能で,これは自然放出とよばれる.

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世界大百科事典(旧版)内の誘導放出の言及

【半導体レーザー】より

…このような電子の状態の遷移によって生ずる光の放出が放出光自身の影響を受けずに起こる場合を光の自然放出といい,この機構は発光ダイオードの動作原理に用いられている。これに対し,放出光自身が電子の状態遷移を強制的に促す結果発光が強められていく循環過程に入り,光の増幅が生ずる状態を誘導放出といい,レーザー光はこの状態で得られる。したがって,半導体レーザーの動作は電子と正孔が半導体結晶のある領域で同時に高密度に存在することにより自然放出光が強くなることを第1の条件とし,さらにこの条件下で放出した光を次の放出過程に連鎖させる効率を高めて光共振が可能になることを第2の条件としている。…

【光】より

…そしてこの光量子仮説を原子構造にとり入れることによって,N.H.D.ボーアは,原子の定常状態のエネルギーはとびとびの値しかとらず,原子がエネルギー2の定常状態から1(21)の定常状態へ遷移するとき,hν=21なる振動数νの光を放出するとして,原子スペクトルの規則性に説明を与えたのである。
[自然放出と誘導放出]
 物質からの可視光や紫外光の放出は,通常,原子内電子の定常状態間の遷移による。高いエネルギーの定常状態にある原子は,より低いエネルギーの定常状態に自発的に遷移するので,このような機構による光の放出は自然放出と呼ばれる。…

【光増幅器】より

…光信号を誘導放出の原理によって直接増幅する装置。誘導放出とは,高いエネルギー状態に励起された電子が,そのエネルギーを失って低いエネルギー状態に遷移する際に,外から入射した光と同じ位相の光を放出する現象をいう。…

【メーザー】より

…アメリカのタウンズCharles Hard Townes(1915‐ )の命名といわれる。物質と電磁波との相互作用における誘導放出を利用したマイクロ波の増幅や発振,あるいはそのための装置をいう。microwaveのmをlightのlにかえたのがレーザーで,両者はまったく同一の原理に基礎をおいている。…

【レーザー】より

…light amplification by stimulated emission of radiation(誘導放出による光の増幅)の頭文字をつづってつくられたことば。低いエネルギー状態(エネルギー準位)にある分子(あるいは原子,イオン)の数より高いエネルギー状態にある分子の数のほうが多いという非熱平衡分布(反転分布)をしている物質系に,共鳴する光を作用させて,誘導放出過程によって,コヒーレントな光の増幅を起こさせることおよびそのための装置をいう。…

※「誘導放出」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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