日本大百科全書(ニッポニカ) 「自転車危険運転」の意味・わかりやすい解説
自転車危険運転
じてんしゃきけんうんてん
重大な事故につながりかねない自転車による危険行為。2000年代に入って、交通事故件数や交通事故死者数が減少するなかで、自転車がかかわる交通事故の割合が増加しつつある。また、環境への配慮、健康増進といった観点、さらに2011年(平成23)の東日本大震災以降、公共交通機関への信頼の揺らぎから、自転車利用が都市圏を中心に見直されている。それに伴って自転車利用者のマナーについて関心が高まっており、対歩行者、対自動車の双方の観点から、自転車利用者の危険な運転が社会問題となっている。
危険運転は、2013年の道路交通法の改正で、以下の具体的な14の「危険行為」がこれに該当すると定められた。
(1)信号無視(道路交通法第7条)
(2)通行禁止違反(同第8条第1項)
(3)歩行者用道路における車両の通行義務違反(徐行違反)(同第9条)
(4)通行区分違反(同第17条第1項、第4項、第6項)
(5)路側帯通行時の歩行者の通行妨害(同第17条の2第2項)
(6)遮断機が下りた踏切への立入り(同第33条第2項)
(7)交差点での安全進行義務の違反など(同第36条)
(8)交差点での優先車妨害など(同第37条)
(9)環状交差点での安全進行義務違反など(同第37条の2)
(10)指定場所一時不停止違反など(同第43条)
(11)歩道通行時の通行方法違反(同第63条の4第2項)
(12)制動装置(ブレーキ)不良自転車運転(同第63条の9第1項)
(13)酒酔い運転(同第65条第1項)
(14)安全運転義務違反(同第70条)
さらに2020年(令和2)の同改正で、
(15)妨害運転(あおり運転ともいう。同第117条の2の2第8号、第117条の2第4号)
が加わった。
このうち、「安全運転義務違反」には、ハンドルやブレーキなどを確実に操作せず、他人に危害を及ぼすような速度や方法で運転する行為のほか、傘さし運転、携帯電話やスマートフォンなどを操作しながらの運転、ヘッドホン・イヤホンを使用しながらの運転、夜間の無灯火運転、二人乗りなどの危険運転が含まれる。また、「妨害運転」は、自動車のあおり運転が社会問題となったことを受けて追加されたもので、具体的には、逆走して進路をふさぐ、幅寄せ、進路変更、不必要な急ブレーキ、ベルを執拗(しつよう)に鳴らす、車間距離の不保持、追越し違反という七つの項目が妨害運転とされている。
改正道路交通法では、これらの危険行為を犯し、3年以内に2回以上の違反切符による取締りを受けた場合、または、同じく3年以内に交通事故を2回以上繰り返した場合には、公安委員会の命令で、自転車運転者講習を受けなければならない。受講命令に背いた場合には、5万円以下の罰金が科せられる。
自転車は道路交通法上では軽車両、つまり車両の一種であるが、免許制度がないために、行政処分の反則金の対象ではなく、自転車利用者も自転車が車両であるとの認識が薄い。また、自動車運転者にも「自転車は車両の一種で車道を通行するのが原則である」という認識が薄く、自転車の車道走行への理解が低いため、車道を共有して走る相手として認識されにくい傾向がある。
また、2000年代に入ってから、自転車運転者が加害者となって相手を死亡や重傷に至らしめた事故では、損害賠償額が数千万円から1億円に迫るケースもしばしばみられるため、自転車による事故がクローズアップされるようになった。警察庁では自転車関連事故の防止やマナー向上のため、悪質な運転者へ刑事罰を科すなど、取締りを強化している。
こうした状況を受けて、2024年(令和6)5月、自転車の交通違反に反則金を納付させる、いわゆる「青切符」による取締りの導入を盛り込んだ改正道路交通法が可決・成立し、2年以内に施行されることが決まった。適用されるのは、16歳以上で113の行為が違反の対象となる。
おもな違反は以下の通りである。
(1)信号無視
(2)例外的に歩道を通行できる場合でも徐行などをしないこと
(3)一時不停止
(4)携帯電話を使用しながら運転すること
(5)右側通行などの通行区分違反
(6)自転車の通行が禁止されている場所を通ること
(7)遮断機が下りている踏切に立ち入ること
(8)ブレーキが利かない自転車に乗ること
(9)傘を差したりイヤホンを付けたりしながら運転するなど、都道府県の公安委員会で定められた遵守事項に違反する行為
また、これにあわせ、これまで罰則の対象外だった自転車での酒気帯び運転について3年以下の懲役、または50万円以下の罰金が設けられることとなった。
[佐滝剛弘 2024年11月18日]