交通法令,とくに道路交通法(1960公布)に対する違反。その多くに対しては,同法第8章に罰則が定められている。事故(人の死傷・物の損壊)を伴う場合には,人身事故のときは業務上過失致死傷罪(刑法211条前段),建造物に対する物損事故のときは業務上過失建造物損壊罪(道路交通法116条)にもあたることが多いが,この場合を単純な交通違反と区別して交通事故ということも多い。
道路交通法違反事件は,犯罪としては軽微なものが多く(1996年の全有罪者数約85万人のうち懲役・禁錮に処せられた者は約7000人であり,約97%は10万円未満の罰金である),また数が非常に多い(1996年に警察は約870万件を取り締まっている)。したがって,これをすべて通常の刑事手続で裁判したならば,違反者が裁判にとられる手間はやったことに比べて大きすぎるものになるし,裁判所もぼう大な事務量をさばききれなくなる。交通違反事件の法的処理には,特別の手続を考える必要がある。
刑事訴訟法の〈略式手続〉は,交通違反の処理に活用されている。この手続では,違反者は裁判所に出頭する手間が省け,裁判所は書面審理だけで裁判できるから負担の軽減になる。現在では,違反者を在庁させて起訴し,略式命令の発付から罰金の仮納付までを1日ですませる〈在庁略式〉が広く行われ,交通違反事件の処理に大きな役割を果たしている。1996年に道路交通法違反で検察官が略式命令の請求をした者は約85万人であった。しかし,略式手続は,違反者が直接裁判官に弁解する機会がないなど,手続が簡略であるがための問題点が少なくない。そこで,交通違反事件を多少ていねいに裁判するため,1954年に〈交通事件即決裁判手続〉が作られた。これは,被告人のいる公開の法廷で,簡略な手続で原則として即日に裁判するというものである。しかし,これは略式手続よりも手続が面倒なために1962年の約39万人を境にその後はしだいに利用されなくなり,最近では皆無に近い。
高度経済成長によって自動車の保有台数が増加し,それに伴って交通違反が激増した。これに対処するため,より簡略な処理方式として作られたのが,1963年のいわゆる〈交通切符〉制度と67年の〈交通反則通告制度〉である。交通切符制度は,正式には〈道路交通違反事件迅速処理のための共用書式〉といい,違反を取り締まった警察官が必要事項を記入すれば略式手続・即決裁判手続に必要な文書の一部になる書式(いわゆる赤切符)を用いることで,手続の簡略化をはかったものである。交通違反通告制度は,裁判手続以外の手続で罰金にかえて反則金を納入させることによって事件を処理してしまう制度で,かなり思いきった制度である。この制度によれば,比較的軽微な一定の交通違反が〈反則行為〉とされ,これを発見した警察官が所定の書面(いわゆる反則チケット・青切符)で告知の形式で行い,のちに警察本部長が反則金の納付を通告し,違反者が反則金を納付すれば刑事訴追されないことになっている。反則金は一種の制裁であるが刑事罰ではなく,前科にはならない。この制度は,裁判所や検察庁の負担を激減させ(反則制度実施翌年の道交法違反事件の検察庁受理件数は,実施前年の約3分の1になった),多くの国民を前科から免れさせたが,裁判官によるチェックがないために,運用次第では人権を侵害する可能性もあることに注意しなければならない。1996年の告知数は約770万件である。
交通違反で正式裁判になるのは1996年で約9600人と比較的少ないが,略式命令や反則通告に不服で正式裁判になるものも含まれ,内容的には重要なものが多い。なお,交通違反を扱う裁判所も専門化し,大都市では地裁に専門の部がおかれたり,専門の簡易裁判所(いわゆる〈交通裁判所〉)がおかれたりしている。
交通違反の大部分には違反点数が付され,記録される。これが一定点数に達すると点数に応じて運転免許の取消し・停止の行政処分が行われる。
→交通事故
執筆者:平川 宗信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…また,交通事件について,簡易裁判所は,被告人に異議のないとき,検察官の請求により,公判前,即決裁判で5万円以下の罰金・科料を科することができ,被告人または検察官は,宣告の日から14日以内に正式裁判を請求できる(交通事件即決裁判手続法。交通違反)。 行政上の秩序罰としての過料を科されるのは,届出・通知・登記・登録等をなすべき行政法上の義務を怠る場合のように比較的単純な違反であることが多いが,ときには反社会性の強い義務違反に対しても過料が科せられる場合があり,また,過料の金額の法定最高限は,きわめて低いものも50万円というような高いものもあり,立法政策は必ずしも統一的ではない。…
※「交通違反」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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