航海学(読み)こうかいがく(その他表記)navigation

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「航海学」の意味・わかりやすい解説

航海学
こうかいがく
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船舶を安全かつ経済的に、地球上の一地点から他の地点へ導くのに必要な過程を研究対象とする科学。

 出発地、目的地、現在位置、目的地の方向、目的地までの距離などの確認がもっとも必要な事項で、このためには、地球の形・大きさ、海陸の分布などに関する正確な知識と、地球上の現在位置を推測し(推測航法)測定する(沿岸航法天文航法電波航法)ための学問・技術が、航路標識、水路図誌、諸計測器など、関連する航行援助施設・設備に対する知識とともに要求される。浅瀬などへの乗揚げを防ぎ、気象・海象の現状認識と短期・長期の予測を基に、台風を避けて船体・積み荷の安全を計り、あるいは積極的に風や海流潮流を利用して経済的な航路を選定するなど、気象・海象に関する知識は欠かせない。遭遇する気象・海象に抗して安全であり、貨物の積み卸しや、航海中の管理が能率的かつ完全であるための船舶構造・設備・性能などに関する調査・研究や、船の推進に関する知識も必要である。出入港や狭水路の通過など、船舶を現実の大きさをもつ構造物として扱う必要のある場合の操船には、流体力学的配慮が欠かせない。他船との衝突を避けるための国際海上衝突予防規則はもちろん、海洋汚染検疫、水先、関税領海、海商などに対する国内的、国際的法律、条約命令勧告などについても知っている必要がある。

 以上はほんの一例であるが、最近の著しい技術革新が船舶の自動化、通信手段の発達をもたらしたとはいえ、数少ない航海者に判断と処置をゆだねられた部分がけっして少なくない。安全な航海を実施するのに必要な学問、知識、研究対象はきわめて広範であり、かつ、単なる知識にとどまらず、機に臨んで適切に対応できなければならない総合的、実践的学問である点に大きな特徴がある。

 科学の進歩に伴う専門化が学問分野の硬直化、一体性と連続性の喪失をもたらしたとして、学際的視点の要求が叫ばれるようになったが、航海学はもともと理学、工学、法学、経済学などの多くの分野を有機的に総合した学問であった。船位、航路にかかわる部分のみを航海学という場合もあるが、これはきわめて狭義の航海学である。

[川本文彦]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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