無線航法ともいう。電波の直進性や定速性を利用して,航海情報や飛行情報を収集し,航法の用に供するシステムをいう。1904年,初めて電波が船舶への時報信号に使用されたが,その後,21年になって方向探知機が開発され,ここで初めて電波を利用して自分の位置が求められるようになった。さらにG.マルコーニが,電波の反射波により物体を検知できる可能性を示したことからパルス技術が進歩し,測位システムにも応用され,その結果42年北大西洋にロランA局が設置された。また軍用で研究開発が進められたレーダーも45年以後一般に使われるようになった。
現在,船舶で用いられている電波航法には,無線方位航法,ロランA,ロランC,デッカ,オメガ,NNSS,それにレーダー航法があるが,このうち,レーダー航法の一部を除けば,収集する情報およびその利用は,測者の位置を求めること(測位)を目的としたものであり,電波測位システムといえるものである。電波を利用し,位置を決定する過程は,(1)測位原理に基づいた電波信号を送信し,その信号が受信地点に到達するまでの過程,(2)送信された電波を受信し,受信信号特性を測定する過程,(3)測定した受信信号特性から,送信局(あるいは反射物標)と測者の間の位置関係要素を求める過程(これにより位置の線が求められる),(4)複数の位置の線により,ある時刻の測者の位置を決定する過程,(5)求めた位置の精度が要求精度を満足しているか判断する過程の五つからなる。このうち位置関係要素をどのような信号に変えて送信し,それらをまた測者が位置関係要素に戻すかが,それぞれの電波航法の原理となるものである。現在使用されている電波航法を,求められる位置関係要素別に分類すると表のようになる。このうちロランA,ロランC,デッカ,それにオメガによる位置の線は,双曲線に似た形状であるため,これらをまとめて双曲線航法と呼んでいる。ここでは無線方位航法と双曲線航法の原理について説明し,NNSSについては〈航行衛星〉,レーダー航法については〈レーダー航法〉の項目を参照されたい。
これは位置が判明している局において,電波を送信し,測者が局からどのような方位関係にあるかの方位情報を与えるシステムである。局を測定方法別に分類すると,無線方向探知局と無線標識局に分類される。無線方向探知局は,測者が発射した電波を固定局で受信し,その到来方位を測定してその結果を測者に知らせるもので,船では現在ほとんど運用されていないが,航空機の場合は距離測定装置,タカンでこの原理が利用されている。無線標識局は,無指向性,あるいは指向性の電波を発射する局で,測者がこれを受信することにより,局からの方位,あるいは指向性電波の局における発射方位を知ることができる。
→航空保安無線施設
二つの固定局から同期された電波を送信し,測者がその電波の到達時間差,あるいは位相差を測定することにより,測者と二つの局を結ぶ線の距離差を求めるシステム。これによる位置の線は,2局からの距離差が一定な線,すなわち2局を焦点とする双曲線となる。双曲線航法を測定する信号特性別に分類すると,時間差測定方式と位相差測定方式に分類される。前者には約2MHzの中波を用いるロランAおよび約100kHzの長波を用いるロランCがあり(ロランLORANはlong range navigationの略),後者には約100kHzの長波を用いるデッカDecca,約10kHzの超長波を用いるオメガがある。これらは船舶のみならず航空機でも利用されるが,航空機の場合,オメガを用いた航法をオメガ航法と呼ぶことがある。
時間差測定により,2局からの距離差を求める原理を図に示すが,ここでは主局,従局と呼ばれる二つの固定局から,決められたタイミングでパルス波を繰り返し送信するものとする(主局送信繰返し間隔と,従局送信信号の主局信号に対する遅れTSが一定)。測者が受信機を使って主局信号と従局信号との到達時間差を測定すると,その時間差TDはTD=TS+tS-tMとなる。ここでTSは一定であり,電波の伝搬速度をcとすると,tS=\(\frac{RS}{c}\),tM=\(\frac{RM}{c}\)であるから,TDを測定すれば,測者と従局,主局を結ぶ距離の差は,RS-RM=c(TD-TS)として求められる。これは従局,主局からの距離差がc(TD-TS)となる線の上に測者がいることを意味している。
このような位置の線を使って位置を決めるのは,次のようにして行われる。すなわち,n次元空間においてはn個以上の位置の線を求め,また移動しながら観測した場合は,前に測定して得た位置の線を最終測定まで測者の移動量に応じて移動させ,すべての位置の線による交点,あるいは最確点を作図や計算により求め,そして局や物標から求めた最確点までの緯度差,経度差を求め,これを局や物標の位置に加えて最終観測時における測者の位置とする。
→航法
執筆者:今津 隼馬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電波の直進性、定速性、反射性を利用する船舶や航空機の航法の総称。可視光線よりはるかに波長の長い電波を利用するので、伝播(でんぱ)中の減衰が少なく、夜間や悪天候でも使用できる。電子航法ともいう。
1920年代から無線方位信号が使われ始め、第二次世界大戦を契機として各種の測位方式が著しく発達した。現在、船舶で広く用いられている方式を大別すると次のとおりである。
(1)電波の直進性を利用して発信局の方位を測定する方式 無線方位信号がこれにあたる。枠型空中線の指向特性を利用した無線方位測定機で電波の到来方向を測る方式である。陸上に設置された無線標識局から発射される標識電波を船で測定する場合(船測無線方位という)と、船から発射する電波の方向を陸上の方向探知局で測定してもらい、その結果の通報を受ける場合(陸測無線方位という)の2種がある。船測無線方位による位置の線は無線標識局を測定方位に測る等方位曲線であり、陸測無線方位による位置の線は無線方向探知局と測定角で交わる大圏で、両者の性質は本質的に異なる。無線方位信号の使用電波は中波で、各種の誤差があって方位測定精度も低く、利用範囲も局から50~100海里と短いので、ともに漸長方位に改めて、交差方位法によって船位を決定する。
無線方位信号よりも高精度の測位方式が用いられるようになった現在では、船位測定よりも遭難船救助や捕鯨などの帰投用に用いられることのほうが多い。マイクロ波を用いるコースビーコンもこの分類に入る。
(2)電波の定速性を利用して二局からの距離差を測定する方式 ロラン、デッカ、オメガなどの測位方式である。二定点からの距離差が一定な点の軌跡は、その2点を焦点とする双曲線であるから、二発信局からの距離差がわかれば双曲線の形で位置の線が決定される。このような測位方式を一括して双曲線方式hyperbolic systemという。距離差測定法には、衝撃波を用いて二局からの電波の到達時間差をマイクロセカンド単位で測定する方式(ロラン)と、持続波を用いて位相差を100分の1サイクル単位で測定する方式(デッカ、オメガ)の二法がある。測定時間差または位相差に対応する双曲線を、そのつど海図に記入することは不可能であるから、適当な間隔で双曲線群が海図に重ね刷りされたデッカ海図、ロラン海図などが出版されている。航海者は二つの組局から2本の双曲線を求め、その交点として船位を決定すればよい。有効距離は使用電波の周波数、組局間の距離、送信出力、昼夜、局との関係位置、要求精度などによって異なり一概にはいえないが、ロランAが700~1200海里、ロランCが約2倍、デッカは主局から約250海里程度で、オメガは信頼度が低い。
(3)電波の直進性・定速性・反射性を利用して物標の方位・距離を測定する方式 レーダーがこれにあたる。船の高いところに取り付けた指向性回転アンテナ(スキャナー)からマイクロ波のパルスを発射し、陸地や他船からの反射波を受信してブラウン管に表示して、物標までの方位と距離を知る装置である。残像時間の長いブラウン管を使用して、スキャナーが1回転しても初めの映像が残っているので、自船を中心とする全周が同時に見られる利点がある。有効距離はスキャナーの高さ、使用波長、物標の種類などによって異なるが、船で用いるレーダーは40海里ぐらいまでである。夜間や霧中でも映像が示されるので、沿岸航行中の位置測定や、沿岸、大洋を問わず見張り、他船との衝突回避に利用でき、航海者にとってもっとも有効な電波航法装置である。
このほか、発信局と受信局の相対速度変化がきわめて大きい場合は、ドップラー効果も利用できる。
[川本文彦]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 人工衛星による航法方式の一つであるNNSS(Navy Navigation Satellite Systemの略)は,人工衛星からの電波のドップラー周波数を計数することで,一定の時間間隔の人工衛星位置と受信位置(移動体位置)との距離差を求めるもので,距離差の求め方は異なるが,この距離差によって得られる双曲面を利用して位置決定を行っている。航行衛星電波航法
【利用媒体による航法の分類】
航法はその方法によってさまざまな形に発展分化してきており,慣例的に,地文航法,天文航法,電波航法,あるいは自立航法などの名で呼ばれている。これらの区分の基準は明示されないまま使用されているので,基準とともに示したのが表2である。…
※「電波航法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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