日本大百科全書(ニッポニカ) 「殻構造」の意味・わかりやすい解説
殻構造
かくこうぞう
量子力学に従う物質のいろいろな状態のエネルギー値は連続的でなく離散的である。これらの状態が、エネルギー値の等しい、またはほぼ等しいグループに分かれていて、異なるグループ間のエネルギー差が同一グループに属する状態間より十分大きいとき、各グループを殻とよぶ。原子や原子核の構造を説明するときには、この殻の構造、すなわち殻構造の概念が用いられる。
[村岡光男]
原子の殻構造
原子はその中心に原子核があり、それを中心として電子がそれぞれの軌道を描いて独立に運動している。これらの軌道およびそのエネルギーを完全に表すには、四つの量子数、すなわち主量子数n、方位量子数l、磁気量子数mおよびスピンsで決定される。主量子数nはゼロでない任意の整数値をとりうる。方位量子数lは電子の角運動量を決定し、その値は主量子数nの一つの値についてn-1,n-2,……,0のn個の整数をとりうる。磁気量子数mは±l,±(l-1),±(l-2),……,0の、つまり2l+1通りの値をとることができる。電子の自転の角運動量を示すスピンsは、自転の向きによって±1/2の値がある。原子中の電子はパウリの原理によって、どんな二つの電子も、一つの原子の中で四つの同じ量子数をもつことができないので、(n,l)軌道には最大限2(2l+1)個の電子が入りうる。完全に軌道に詰まったとき電子密度は球対称で、全体としては角運動量をもたない。おのおのの主量子数に属する電子軌道の集まりを電子殻とよび、最大個数の電子が詰まってそれ以上電子の入ることができない殻を閉殻という。とくにn=1,2,3,4,……に対してK、L、M、N、……殻という名を用いる。このときlの異なる殻を準殻subshellという。原子における電子は、原子核に近い軌道から順に最大個数に等しい数まで電子が詰まっていき、層状の電子殻が核の周りに存在すると考えられる。これを原子の殻構造という。元素の周期表の規則性は、電子がパウリの原理に従って詰まっていく状態によっている。電子殻が完全に詰まって閉殻をつくると、安定な希ガスの性質をもつ。これは殻と殻との間のエネルギー準位の差が大きいためである。閉殻の外にある電子が1個のときはアルカリ金属としての性質をもち、電子が1個足りないのがハロゲンである。閉殻の外にある電子を殻外電子という。この殻外電子がいろいろ化学的な働きをするので周期表の規則性が現れる。
[村岡光男]
原子核の殻構造
原子核は陽子と中性子からできているが、陽子数Zまたは中性子数Nが2、8、20、28、50、82、126という数のとき、とくに安定である。この数を魔法数magic numberとよんでいるが、それは原子における不活性原子との類似点を暗示している。原子の場合には、電子が原子核を中心にしてそのクーロン場の中で独立に軌道運動していることが電子の殻状構造の成因であったが、原子核の場合には原子の核に相当するような明確な中心はない。しかし核子の集団が重心を中心にしてその周りに、あたかも一体ポテンシャルの中をそれぞれが独立に軌道を描いて運動しているような運動様式を自身でつくりだしている。そのエネルギー準位に順番に核子を詰め込んでいくことにより、魔法数を閉殻をつくるときの数として説明できる。これを原子核の殻構造という。
[村岡光男]