着色ガラスともいう.可視領域の入射光に対する透過率が波長により違うため,着色して見えるガラス.着色の原因および着色方法は以下のように分類できる.【Ⅰ】ガラス形成物質による着色:
(1)酸化物ガラス;主成分で着色性のものは少ないが,紫外部に強い吸収があるため,淡黄色を呈するものがある.V2O5,Fe2O3などを多量に含む半導性ガラスには,ほとんど黒色のものがある.
(2)非酸化物ガラス;カルコゲン化物ガラスなどには可視領域に吸収があり,着色しているものが多い.【Ⅱ】添加物による着色:
(1)着色性イオン;遷移元素を添加するとさまざまな色に着色する.遷移元素の大部分のイオンでは,ガラス中で2種類の酸化状態または配位数が共存し,これらの濃度比は溶融時の温度,酸化性か還元性かの雰囲気,ガラスの酸性・塩基性の程度などに依存して色は変化する.光の吸収が3dあるいは4d電子のエネルギー準位の分枝に起因している場合は,遷移金属イオンに直接配位している O2- だけでなく,それに隣接するイオンによっても配位子場の強さが変わるため,色調が変化する.
(2)着色性コロイド;Cu,Ag,Au,Ptなどの金属,S,Se,Pなどの非金属,CdS,FeS,Na2S,Sb2S3,NaF,CaF2,TiO2などの化合物のコロイドの生成により着色する.溶融時はイオンの状態で均一に分布しているが,温度を下げていくと溶解度が低下してコロイドが析出する.ガラスの製造条件によりコロイドの粒径,析出量などが異なるため,色調が変化する.【Ⅲ】放射線による着色:
(1)格子欠陥;ガラス中の格子欠陥に放射線エネルギーで遊離した電子が捕えられ,色中心をつくる.
(2)ソーラリゼーション;紫外線などの作用により,ガラス中に含まれる着色性イオン間に,
Mn3+ + Fe2+ → Mn2+ + Fe3+
などの反応が起こり,色調に変化を生じる.【Ⅳ】その他:
(1)ステイン;Cu+,Ag+,Au+ などのイオンを熱時ガラス表面層の Na+ と置換し,最終的には金属コロイドとして着色層を形成する.
(2)プリント;低溶融着色ガラスの微粉末をガラス表面に焼き付けて着色する.
(3)干渉性薄膜;ガラス表面を処理し,低屈折率の薄膜を形成する.あるいは反射防止膜としてMgF2,そのほかの薄膜を形成すると,無反射となった波長以外が余色として反射し,着色して見える.さらに,数種類の物質で多層の薄膜を形成し,干渉条件を定めて特定波長域のみの透過をはかると干渉フィルターとなる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
フィルター,信号灯,サングラス,食器,装飾品,建築用などに利用する目的で着色したガラスの総称。ガラスに色をつけるためには,遷移金属イオンまたは希土類イオンを存在させるか,あるいはコロイドをガラス中に分散させる必要がある。遷移金属と希土類イオンは複数の酸化状態をとることが一般的だから,ガラス組成や溶融条件が変わると発色も変化する。とくに遷移金属イオンは配位子場の影響を受けやすいから,ガラス組成の変化によって色も変化しやすい。コロイド着色ガラスは,金属または非金属のコロイドによって着色されるが,金属コロイドとしては,金,銀,銅の貴金属類,非金属コロイドとしては,セレン,リンなどの元素,硫化カドミウムCdS,セレン化カドミウムCdSeなどの化合物が使用されている。添加するイオンあるいはコロイドと着色との関係を以下に示す。
(1)酸化物ガラス中の遷移金属による着色の例 Fe2⁺(青緑),Fe3⁺(褐色),Co2⁺(ピンク,青),Cr3⁺(緑),Cr6⁺(淡黄),Mo3⁺(だいだい),Mo4⁺(緑),Ti3⁺(青),Cu2⁺(青),Mn2⁺(赤紫),Mn3⁺(紫褐色),Ni2⁺(黄褐色,暗紫色),V3⁺(緑)。
(2)希土類イオンによる着色の例 Nd3⁺(赤),Pr3⁺(緑),Er3⁺(ピンク),Ce4⁺(淡黄)。
(3)コロイドによる着色の例 Cu(赤),Ag(黄),Au(赤),S(青),Se(ピンク),P(赤),CdS(黄),CdS-CdSe(だいだい~赤),Sb2S3(赤)。
着色ガラスの応用で重要なものは,フィルター用および信号灯用である。フィルターには白黒写真用のコントラストフィルター,カラー写真用の補正フィルター,色温度変換フィルター等があり,信号灯用には鉄道用,航空標識用,船舶信号灯用などがあり,それぞれ色相と明度が規定されている。
→ガラス
執筆者:安井 至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ガラスに着色したもので、着色ガラスともいう。多くの製法があり、安定性も半永久的なものから紫外線や熱に弱いものまでいろいろある。ガラス自体は一般にきわめて安定なので、着色剤を加え高温で溶融してつくられた色ガラスはガラスの内部まで着色しているから、ガーネットやエメラルドと同じくその色は不変である。反対に有機着色剤などをガラス表面に塗布したものは耐候性が弱く、はげたり退色したりしやすい。
内部着色でも、ガラス中での着色剤の状態がイオンであるかコロイドであるかによって同じ物質でも色が違い、また同じイオンでも原子価によって別の色になったりする。これらはすべてガラス原料の調合組成、溶融および冷却条件に左右されるので、希望する色をつくるには知識と経験が必要である。ステインは、数百度に加熱しながら拡散によって着色剤をイオン状態で表面からしみ込ませて着色する。焼き付けは、セラミック顔料とよばれる微粉状のガラス状顔料を有機溶媒に混ぜ、スクリーン印刷などによって表面に塗り数百度に加熱して融着する。これら加熱による表面着色は比較的じょうぶである。ガラスはX線などの放射線によって着色することが多いので、これを利用して特殊な色ガラスをつくることも可能であるが、温度が上がったり、高エネルギーの光が当たったりすると消色しやすい。
色ガラスは古代から工芸品、ステンドグラスなどに用いられてきたが、現代では、自動車用ガラス、照明器具、サングラス、光学器械などと用途が急速に広がってきている。しかし色ガラスよりも無色に近いガラスをつくるほうがはるかにむずかしい。
[境野照雄・伊藤節郎]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…12~14世紀にはシリアを中心として多彩な装飾技法が完成された。その一つはすでにローマ時代にあった色ガラスの技法で,14世紀ころまで続いた。これは,白色のガラスの糸を容器の溶けた軟らかい表面に巻きつけ,櫛で波状にアクセントをつけてから,石棒で器面に押しつける技法である。…
…おもに古代から中世にかけて,地中海地方を中心に発達した。細片(テッセラtessera)は普通数mmから2~3cm角で,大理石や貴石,色ガラス,金銀箔をはったガラスなどが使われ,しっくいの地に埋め込まれる。モザイクの特長は,耐久性に富み,輝かしい色彩が半永久的に得られることで,建築内部の大規模な装飾に最も効果的に使われた。…
※「色ガラス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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