花文字(読み)はなもじ(英語表記)capital letter

日本大百科全書(ニッポニカ)「花文字」の解説

花文字
はなもじ
capital letter

文書、書籍、器物などに芸術的な味わいを施すために用いられる飾り文字または装飾頭(かしら)文字。イニシアル(頭文字)の一種。一般の字より際だって大きく、それに加えて、飾り枠に囲われていたり、綯(な)い縄や蔦(つた)がらみや縁どりなどをした飾り書体であったり、それらの組合せであったり、植物、動物、人物、劇的場面など、文字以外の図柄が添えてあったりする。表題や看板でもない限り、各一段落の文字列の最初の一字(イニシアル)にしか用いられないが、その字丈(ゲージ)で数行を占める。なお、物品の持ち主や贈り主を示す頭文字などにもそれだけで用いられることがある。

 花文字は、古代ヨーロッパの写本にすでにみられるが、キリスト教がケルト民族やゲルマン民族まで行き渡った中世に、修道院でつくられた聖書の写本を中心に用いられ、それにはギリシアやローマの図柄とともに各地の民俗的装飾文様なども取り込まれて発達し、精巧緻密(ちみつ)で整ったものになった。そこには、「イタロ・サクソン芸術」といわれるものも花開いた。

 花文字を書いたカリグラファー(能書家)として、カール大帝の御用画家ゴーテスコルク(8世紀)をはじめ、ザンクト・ガレンの修道院長のサロモン(10世紀)、僧のラートヤン(12世紀)とホーゼマン(13世紀)、尼僧マルガレータ(15世紀)、リンゲルスドルファー(16世紀)らの名があり、聖職者が多かったが、13世紀以来、俗人の間にも花文字を含む筆稿が広がった。中世に教会の権威を飾った手書きの花文字は、近世になると法王の権勢とともに落ち目になったが、その一方で、グーテンベルクの活版術以来、活字のなかに組み込まれた花文字(活字)は、アルファベット一そろいの字母を整えれば足りることもあり、聖俗にかかわらず生き続けてきた。花文字の発達期は、大文字小文字の使用法および分かち書き法の成立期でもあった。

[日下部文夫]

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デジタル大辞泉「花文字」の解説

きゃ‐もじ【花文字】

[形動ナリ]《「花車(きゃしゃ)」の女房詞から》繊細で、美しく上品なさま。
「御小袖、―なる御したて」〈東国紀行

はな‐もじ【花文字】

草花の模様などで飾った大文字のローマ字。
草花を文字の形に並べて植えたもの。また、花を並べて文字の形にしたもの。

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精選版 日本国語大辞典「花文字」の解説

はな‐もじ【花文字】

〘名〙
西洋のアルファベットの大文字に装飾を加えたもの。文章の最初の語の語頭、固有名詞などの語頭、刺繍などに用いられる。
※風流京人形(1888‐89)〈尾崎紅葉〉四「白の無地の角に浅黄糸にてSを花文字(ハナモジ)に縫ひたる絹はんけちを取出し」
② 花を文字の形に並べ植えたもの。また、花でつくった文字。

きゃ‐もじ【花文字】

〘名〙 (形動) (「きゃしゃ(花車)」の後半を略し、「文字」を添えたもの) 「きゃしゃ(花車)」をいう女房詞。
※御湯殿上日記‐明応七年(1498)三月一六日「御たるにをかるる物ともさまさまにきやもしなり」

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