日本大百科全書(ニッポニカ) 「芳香族化」の意味・わかりやすい解説
芳香族化
ほうこうぞくか
aromatization
各種炭化水素から芳香族炭化水素を生成する反応で、アロマティゼーションともいう。以下に述べるように、石油化学工業でいう芳香族化と基礎的な有機化学の芳香族化は目的・方法で異なっているので、使い分けが必要である。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
石油化学工業での芳香族化
石油化学工業では接触リホーミング(接触改質)やハイドロホーミング(水素化精製)により、重質ナフサからベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)などの芳香族炭化水素を製造していて、この製造プロセスを芳香族化という。芳香族化の工程では、パラフィンやナフテンを含む石油留分を白金系・シリカ系触媒の存在下で高温処理して、需要の多いベンゼン、アルキルベンゼンなどを大規模に生産している。この芳香族製造プロセスには、環化、異性化、脱水素などの反応工程が含まれている。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
有機合成での芳香族化
実験室的には、シクロヘキサン環やシクロヘキセン環をもつ化合物をパラジウム、白金、ニッケルなどの金属触媒と300~350℃の高温に加熱してベンゼン環にする反応が行われている。この反応は、シクロヘキサジエン環をもつ化合物では比較的容易に進み、シクロヘキサジエノンを芳香族のフェノールにする反応は常温で進行する。芳香族化はベンゼンから出発して側鎖を導入し、環化を経てナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどの多環芳香族化合物を合成する工程でも重要な反応である。この例としては、ハウワース法や、アニリンからキノリンを合成するスクラウプ法が有名である。芳香族化は合成ばかりでなく、有機化合物の構造決定法としても応用されていたが、現在では機器分析により容易に構造を決められるようになったので、その重要性は低下している。天然物の芳香族化はセレン、硫黄(いおう)の存在下、高温で行われ、生成物の構造からもとの天然物の骨格や構造を知ることができる( )。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
『R・T・モリソン、R・N・ボイド著、中西香爾他訳『有機化学』(1977・東京化学同人)』