翻訳|profession
専門職(専門的職業とも呼ぶ)の定義はまちまちであるが,専門職が備えていなければならない基本的な要件は,(1)体系的な知識(学問)を長期間学ばないと就けない職業であること,(2)自己の利益追求よりはむしろ公共への奉仕を指向していること,の2点である。具体的には聖職者,法律家,医師,高等教育機関の教師,科学者,技術者,芸術家がその代表的なものである。
専門職は職業の一部であるが,普通の職業と区別されて扱われることが多い。どのような点が異なるかというと,まず定義で述べたように,仕事が体系的な知識の上に立ってなされることがあげられ,一般的には大学教育以上のレベルの教育が必要とされる。このことと関連するが,専門職従事者は通常その仕事を自分自身の判断によって行い,他からの指図を受けることがない。必要な知識や判断能力は訓練によって個々人が身につけていると考えられているためであるが,それを保証するために資格制度が設けられており,その資格を取得しないと職業活動ができないことが多い。職業に対する報酬の点から他の職業との差異をみると,普通の職業が市場原理に従った報酬を獲得するのと異なって,専門職は理念としては営利を直接の目的としない(現実には営利主義が浸透してきていることは事実であるが)。医師における診療拒否の禁止などはこの原則の一例である。専門職は比較的高い報酬を享受していることが多いが,これは専門職がつねに示す属性ではない(たとえば聖職者)。職業・社会的側面では,まずその職業的威信(尊敬を受ける程度)が高いことが指摘される。第2に,専門職従事者による団体が結成されていることが多く,その団体の力が大きいことがあげられる。専門職団体は資格付与の権限をもつのが普通であり(日本では必ずしもそうではなく,欧米と非常に異なる),メンバーの教育訓練を行う。専門職団体はまた,他からの介入を排除して自治を行う権限をもっていることが多い。専門職はそれぞれ独自の倫理をもっており(この点も専門職の重要な特性である),この倫理をメンバーに強制する機能をもっている(たとえば弁護士会の懲戒など)。専門職団体はみずからの職業を社会的により有利にしようとする種々の活動を行う。とくに,社会的に完全な専門職として認知されていない職業(準専門職などと呼ばれる)の場合は活発な活動が行われる。
専門職はもともと西欧的な概念であり,日本では専門職を西欧ほど明確に他の職業から区別しないことが多い。また西欧においても古典的な専門職(医者,弁護士など)に加えて新しい専門職(技術者など)が増加するにともなってその概念が変わりはじめている。専門職は普通の労働者とは別格に扱われてきたが,教育労働者(主として初等・中等教育の教員を指す)や知識労働者(主としてコンピューターなどの新しい知識を用いて仕事をしている人々)といった呼称は,これらの職業が高度の知識を必要とする点以外は普通の職業と変わらなくなっている状況を反映している。
執筆者:岡本 英雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般的には医師や弁護士といった国家資格を必要とする専門的職業をさすが、日本企業の人事管理制度上における専門職とは、雇用管理の複線化の下で管理職と対をなす社員区分の一つである。専門職制度が設けられた背景は、経営環境が激変するなかで、管理職レベルの有能な人材をスタッフ部門や技術開発部門に配置することにより、部下の管理というわずらわしい業務から彼らを解放し、専門的知識や高度な能力を発揮させることが、企業経営において重要となったことだとされる。だが現実には、高度経済成長期に大量採用された「団塊の世代」が管理職ポストに差しかかる時期とバブル崩壊後の企業成長の鈍化・停滞の時期とが重なったなかでの、管理職ポスト不足への対応策として、役職につかなかった者への処遇上の救済措置として運用される専門職制度が多い。したがって、その場合には名称は「専門職」であっても実態は「部下なし管理職」であり、容易にリストラの対象となる。また、専門職よりも管理職のほうが「専門性」において秀(すぐ)れていることもある。もちろん、企業には経理や人事の、または製品開発や技術開発の飛び抜けた専門家がいることは事実であるが、数的にはかなり少数である。
[竹田昌次]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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