音楽が人間の生理と心理に及ぼす機能的効果を利用して、心身の健康のために音楽を心理療法として応用すること。古くはギリシア神話や『旧約聖書』のなかにも音楽を病気治療に用いた例がみられるし、また人間の心身に取りついた病魔を音を用いた呪術(じゅじゅつ)によって追い払おうとする呪術医師による音楽療法の伝統は世界各地に存在する。しかし現在、欧米を中心に行われているのは、第二次世界大戦を境に生まれた科学主義音楽療法で、戦争による心身障害克服のために開発された。音楽療法の領域は、精神医学や精神身体医学の心理的分野から、いわゆる人間形成一般にまで及び、その活動範囲も精神科病院から特殊教育施設、非行関係施設、老人施設、ストレスの多い職場などへと広がっている。その使われ方は、単調な作業場や待合室でのストレス緩和剤としてのBGM(バックグラウンド・ミュージック)の使用、自閉症児などに対してのリズム刺激による反応の活発化、好みの楽器で即興演奏を誘発させ自己表現の実現を図る表現療法、合奏を通じて集団所属感、役割意識などを喚起する合奏式コミュニケーション法、言語・身体運動障害のリハビリテーションへの音楽の応用などさまざまである。これら種々の療法を統一する理論はまだ確立していないが、アメリカでは音楽療法士music therapistの養成も行われており、臨床と結び付いた研究が進められている。
[川口明子]
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…とくに精神科の疾患がその対象となり,今日ではほとんどの精神病院で盛んに行われている。芸術のジャンルに合わせて,人物や風景を描かせる絵画療法,作曲・合唱・鑑賞をさせる音楽療法,俳句や詩文を作らせる詩歌療法,ドラマを演じさせる心理劇,音楽に合わせて踊らせる舞踊療法などに分かれるが,治療の主眼はむろん優れた芸術作品を作り出すことにあるのではなく,さまざまの表現活動や創造体験を通して自己の内面を吐露し,洞察し,変容させていく過程にある。 芸術療法の起源はきわめて古く,アリストテレスが悲劇の効用としてカタルシスを説いた古代ギリシアにさかのぼり,当時〈音楽の処方〉として竪琴が用いられた記録もある。…
※「音楽療法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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