改訂新版 世界大百科事典 「蒸発缶」の意味・わかりやすい解説
蒸発缶 (じょうはつかん)
evaporator
化学プロセスにおける蒸発を行う装置。その基本的な形式を図1に示す。熱源としてはスチームのほかに燃焼ガスや伝熱媒体が用いられる。原料が供給されると,これが熱を受けて沸騰し溶媒(水)が蒸発して缶の頂部から排出される。発生蒸気の排出を容易にして安定な操作を行い,かつ伝熱を促進させるために図に示したように缶内で液が循環するようにくふうすることが多い。缶内には適量の液が存在するが,下部の液ほど圧力を受けることになるので沸騰温度が高くなる。図に示した基本的な形式以外にも多くの形式の蒸発缶が提案されている。これらは加熱方法,液の供給および循環の方法,結晶の析出の有無等の点で異なっている。多管型の伝熱部(カランドリアという)を用いて管外に熱源を供給して加熱する形式を外部加熱式,逆に管内から加熱する形式を内部加熱式という。一方,ポンプを用いて液を循環させるものが強制循環式であり,そうでないものが自然循環式である。また,液を缶にためて蒸発させる形式と,液を薄膜状に流下させて蒸発させる形式とに分けて考えることもできる。後者は熱安定性の低い物質や高粘性の液を取り扱うのに適している。これら種々の形式の蒸発缶の選定に当たっては,(1)液の粘性,(2)取り扱う物質の熱安定性,(3)結晶やスケールの生成の有無,(4)液の沸点上昇や腐食性,(5)所要伝熱面積の大きさ,などの点を考慮する必要がある。
蒸発には多量の熱を消費するので熱の有効利用が図られなければならない。その方法の一つが蒸気圧縮法である。これは,蒸気を断熱圧縮すれば温度が上昇するという原理を利用して,発生蒸気の温度を上げ自己の蒸発に要する熱の熱源に用いるものである。このようにすれば蒸発潜熱を大幅に回収することができる。図2にその概要を示した。
熱の有効利用の他の方法は多段化である。多段化を伝熱の温度差を小さくするように行えば伝熱の不可逆性が小さくなり,エネルギー効率が上昇する。その具体的な方法の一つが多重効用缶である。蒸発缶を多段化すれば後段の缶ほど圧力が低くなり,沸点も低くなる。したがって,前段の缶で発生する蒸気を熱源として使用できるわけである。すなわち,1段目の蒸気量で全部の缶の熱をほぼまかなうことができる。各段の圧力差は缶内における液深と蒸気の流動抵抗で定まる。蒸気の流れと給液の流れが同じ方向の場合を順流と呼び,蒸気と給液との流れが互いに反対方向に進むのを逆流という。
もう一つの多段化の例として多段フラッシュ(蒸発)法がある。これは,蒸発缶内で加熱を行わずに,蒸発缶に入る前に十分な熱量を給液に与えておき,その後に蒸発缶に供給して溶媒の蒸発を起こさせるものである。このようにすれば加熱部においてスケール(湯あか)が伝熱面に付着するおそれがなくなるので,海水の淡水化などスケールの付着しやすい原料を取り扱うときに有用である。海水の蒸発に用いる多段フラッシュ法では多重効用缶と同様に後段にいくにしたがい圧が低く,沸点の低い条件で海水が蒸発するようになっている。蒸気を凝縮させるための冷媒には供給する海水を用いており,これが海水の予熱をも兼ねている。
→蒸発
執筆者:古崎 新太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報