(読み)むす

精選版 日本国語大辞典 「蒸」の意味・読み・例文・類語

む・す【蒸】

[1] 〘自サ五(四)〙 風が無く温度が高く、しかも湿気があって、暑さがこもるように感じられる。湯気の中にいるように熱くてじとじとする。
※大唐西域記長寛元年点(1163)七「空の中、火下(ふ)り煙焔雲に蒸(ムス)
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「今宵もきつう蒸(ムシ)ますナアと、隣の家へ愛相いふて」
[2] 〘他サ五(四)〙
① 湯気を通して熱する。熱気を通して熟させる。ふかす。
書紀(720)敏達元年五月(前田本訓)「乃ち、羽を飯の気(け)に蒸(ムシ)て、帛(ねりきぬ)を以て羽に印(お)して、悉に其の字を写す」
日葡辞書(1603‐04)「マンヂュウヲ musu(ムス)
② 軍陣で、かがり火をたき、鬨(とき)の声をあげて、今にも攻めかかろうとする気勢を敵に示す。
※太平記(14C後)六「四五日を経て後、方々の峯に篝火を焼て、一蒸蒸(ムス)程ならば、坂東武者の習、程無く機疲て」
③ 倍にする。博打(ばくち)で用いる語。
浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「こちは八貫出して置く、まければそれでとりやりなし、かてばむして十六貫」
双六(すごろく)で、相手の石を盤の一隅に追い詰めて進退ができないようにする。
※浮世草子・好色産毛(1695頃)二「二六時中の暮がたふ、白黒とのみ、何わきまゆるかたなふ候、大和(やまと)本手(ほんで)の事ばかり、おもひきられぬ石づかい、心づかいに戸口をしめて、一六さまの出も入もならぬやうにして、むしがへしを心あてに、月なき夜半によいめにあふて、幾度も幾度もむされ度(たく)候」
⑤ いやがらせをする。
※仁説問答師説(1688‐1710)宝永三年講「文山のやうに何やうにをどしてもむしても屈することでないは」

むし【蒸】

〘名〙 (動詞「むす(蒸)」の連用形名詞化)
① 蒸すこと。また、その蒸したもの。
※名語記(1275)四「布を白くなさむとて、むしにいるといへるむし、如何。これはむす也。蒸也。むしは惣名也。躰也。むすはその用也」
※滑稽本・七偏人(1857‐63)初「煉(ねり)とも付ず蒸(ムシ)とも付ず変な味ゆゑ」
② 味噌(みそ)をいう女房詞。おむし。〔大上臈御名之事(16C前か)〕
蕎麦(そば)をいう女房詞。
④ 博打(ばくち)で、金額を倍にすること。賭け金を倍にすること。
※浄瑠璃・児源氏道中軍記(1744)四「コリャせけるはい、是からむしじゃ、前に有り切なめじゃぞなめじゃぞ」
⑤ 茶碗蒸し。

む・せる【蒸】

〘自サ下一〙
① むし暑くなる。しめって熱気がこもるようになる。
開化入口(1873‐74)〈横河秋濤〉上「乃(そこで)頭がむせて虱がわいたり、臭くて叶はない処から」
② 飯などが蒸し上がる。
太政官(1915)〈上司小剣〉五「『こいつもぼしぼし蒸せて来たよってなア』と数之介は傍の火鉢にかけた中形の土瓶の蓋の隙から吹き出す白い湯気を見詰めた」

ふ・ける【蒸】

〘自カ下一〙
① 湿気や熱気でいたむ。蒸れたり湿ったりして腐る。
梅津政景日記‐慶長一七年(1612)四月一九日「おととしの米ふけ候には、あら御座候共」
② 芋などが、むされて柔らかくなる。また、御飯が炊きあがる。
※彼女とゴミ箱(1931)〈一瀬直行〉橋下のルンペン「ブツブツと飯のふける音」

む・れる【蒸】

〘自ラ下一〙
① 湿り気のある熱気がたちこめる。また、湿った熱気がこもって不快な感じになる。むす。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下「いきれっくさい。しかし芝居だから、むれる筈ではあるが」
② 十分に熱や湯気がとおる。特に、飯などがむされて柔らかく食べごろになる。

ふかし【蒸】

〘名〙 (動詞「ふかす(蒸)」の連用形の名詞化)
① ふかすこと。また、ふかし具合やふかしたもの。
※土(1910)〈長塚節〉一三「おつぎは熱いふかしを蒸籠から杓子で臼へ扱き落しながら」
② むし器。

ふか・す【蒸】

[1] 〘他サ五(四)〙 むしてやわらかくする。水蒸気で熱して温かくする。むす。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉九「デザアトが新薩摩芋のふかしたのに」
[2] 〘他サ下二〙 (一)に同じ。〔志不可起(1727)〕

うま・す【蒸】

〘他サ四〙 (「うむす(蒸)」の変化した語) むす。ふかす。
※観智院本名義抄(1241)「飯 ウマス」

むら・す【蒸】

〘他サ五(四)〙 たきあがった飯などがむれるようにする。むらせる。〔改正増補和英語林集成(1886)〕

うむ・す【蒸】

〘他サ四〙 湯気で熱する。むす。うもす。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕

うも・す【蒸】

〘他サ四〙 湯気で熱する。むす。うむす。〔観智院本名義抄(1241)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「蒸」の意味・読み・例文・類語

じょう【蒸】[漢字項目]

[音]ジョウ(慣) [訓]むす むれる むらす
学習漢字]6年
熱気・湯気が立ち上る。「蒸気蒸暑蒸発
蒸気で熱する。「燻蒸くんじょう
多い。もろもろ。「蒸民」
[難読]蒸籠せいろう

むし【蒸(し)】

蒸すこと。蒸したもの。「茶碗蒸し」「さか蒸し
味噌みそをいう女房詞。おむし。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

動植物名よみかた辞典 普及版 「蒸」の解説

蒸 (ムシ)

植物。イラクサ科の多年草,薬用植物。カラムシの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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