出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
北村透谷(とうこく)の劇詩。1891年(明治24)5月に、養真堂刊という形で自費出版したもの。蓬莱山つまり富士山の麓(ふもと)・中腹・絶頂を舞台に設定、現世を捨ててここにきた気性鋭い内攻的な青年に、大魔王が自分こそこの世の物質的な繁栄を支配していると同時にその破滅をも支配している、と告げ、自分に服従せよというが、青年はそれを拒み富士山頂で死ぬ。明治浪漫(ろうまん)派初期の主要作の一つ。青年は作者透谷のおもかげを宿している。未完の『蓬莱曲別篇(べつへん)』が付載されていて、そこでは青年の恋人の愛が彼の霊を彼岸(ひがん)での救いに導く。内省する自我意識の苦渋のみごとな表現、熟さぬ韻律をおしての詩的実験、これなりに一種の世界観芸術への試みになっていること、等々のことも注目される。日本近代文学館より復刻本が出ている。
[小田切秀雄]
『『北村透谷詩集』(1975・思潮社)』
…彼はロマン主義の本質を,未知な世界や異常な事物などに対する好奇心などの伝奇性に求めているが,そこから森鷗外元祖説は導かれているのである。これに反対して,勝本清一郎は,〈正統なロマン主義〉の性格が,〈自由を求める精神,形式を破壊する精神,保守的勢力に対して革命的な精神,動的な自己主張の精神〉(〈《文学界》と浪曼主義〉)にあると考え,北村透谷の劇詩《楚囚之詩(そしゆうのし)》(1889)から《蓬萊曲(ほうらいきよく)》(1891)へ展開する過程に,その顕著なあらわれを見ている。この勝本の立場からは,佐藤春夫がロマン的作品として高く評価する鷗外青年期の訳詩集《於母影(おもかげ)》(1889)や小説《舞姫》(1890)は,その静的な形式美,節度,保守,妥協への希求,抒情への傾向において,酷評されざるをえない。…
※「蓬莱曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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