薬剤性難聴(読み)やくざいせいなんちょう

六訂版 家庭医学大全科 「薬剤性難聴」の解説

薬剤性難聴
やくざいせいなんちょう
Drug-induced hearing loss
(耳の病気)

どんな病気か

 病気に対して治療に用いた薬剤の副作用により発生した難聴は、薬剤性難聴と呼ばれます。難聴を引き起こす薬剤は内耳毒性があるため、難聴以外の症状が出ることがあり、注意が必要です。

原因は何か

 難聴を引き起こす代表的な薬剤には、抗生剤(ストレプトマイシンカナマイシンゲンタマイシンなど)、利尿薬フロセミド)、抗がん薬(シスプラチン)があげられます。いずれの薬剤でも内耳の感覚細胞の障害が発生します。なお、薬剤の種類により、主に蝸牛(かぎゅう)に障害が起こるもの(ジヒドロストレプトマイシン、カナマイシン)、主に前庭半規管(ぜんていはんきかん)に障害が起こるもの(硫酸ストレプトマイシン)とに分けられます。通常は両側の耳に同時に起こります。

症状の現れ方

 蝸牛に障害が起これば、耳鳴り難聴が発生します。薬剤により生じる聴力の低下は高音域から始まり、会話音域、低音域へと広がっていきます。そのため、難聴に先立って耳鳴りを感じることが普通です。難聴は進行すれば、両耳ともまったく聞こえなくなることがあります。

 一方、前庭半規管に障害が起これば、めまい感、ふらつきが生じます。時に、吐き気頭痛が現れることがあります。とくに、両側の前庭半規管が高度に損なわれた場合には、歩行時に景色がぶれるようになり、歩行障害転倒の原因になります。

検査と診断

 純音聴力検査平衡機能検査により難聴程度平衡障害の程度を評価する必要があります。内耳毒性のある薬剤を使う前に検査を行い、投与中も定期的に検査を繰り返し、副作用が出るのを早期に発見する必要があります。

治療の方法

 副作用が出たら、ただちに薬剤の投与を中止します。副腎皮質ステロイド薬、ビタミン薬などによる治療を行っても治療効果が期待できない場合がほとんどです。

病気に気づいたらどうする

 薬剤の投与を中止しても難聴が治らないばかりか、さらに悪化する場合があります。薬剤の開始後に耳鳴り、難聴、めまい感、ふらつきが現れたら、すぐに耳鼻咽喉科で早期発見することが必要です。

將積 日出夫

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「薬剤性難聴」の解説

やくざいせいなんちょう【薬剤性難聴】

[どんな病気か]
 病気の治療のために使用した薬剤によって内耳(ないじ)が障害を受けて生じた難聴です。
 難聴をひきおこす薬剤(耳毒性薬剤(じどくせいやくざい))としては、結核(けっかく)の治療に用いられる抗生物質のストレプトマイシン(ストレプトマイシン難聴)やカナマイシン(カナマイシン難聴)が有名です。
 これらは、アミノ配糖体系(はいとうたいけい)というグループに属する薬剤で、ふつうの炎症に用いる薬剤にもこのグループに属している薬が多く、アミノ配糖体系の薬剤は程度の差はあれ、すべて耳毒性をもっています。しかも、注射で全身的に使用した場合だけではなく、点耳薬(てんじやく)のように局所的に使用したときにも難聴がおこることがあります。
 ループ利尿薬(りにょうやく)、白金(はっきん)抗がん剤などでも難聴がおこりますが、その毒性は、アミノ配糖体系薬剤よりは軽度です。
[症状]
 耳鳴(みみな)りで始まり、つづいて難聴に気づくことが多いのですが、耳鳴りはないこともあります。
 難聴は、両方の耳におこることが多く、初め高い周波数の難聴から始まり、しだいに会話で使う低い周波数へと進行していきます。薬によっては、めまいやふらつきがおこることもあります。
[検査と診断]
 難聴は、日常会話に支障をきたさない高い音からおこることが多いので、難聴を自覚しないうちから内耳に障害がおこり始めているかどうか調べる純音聴力検査(じゅんおんちょうりょくけんさ)を受けることがたいせつです。この検査はどこの耳鼻咽喉科(じびいんこうか)でも受けられます。
[治療]
 アミノ配糖体系薬剤で変性した内耳の感覚細胞は、再生しないので、原則として聴力の回復は望めません。代謝賦活剤(たいしゃふかつざい)や血行改善剤(けっこうかいぜんざい)などを用いて治療しますが、効果はあまり期待できません。
 したがって、アミノ配糖体系の薬剤を使用するときには、日常生活に支障をきたすほどの難聴がおこらないように予防することがたいせつになります。
[予防]
 アミノ配糖体系薬剤で難聴がおこるかどうかは個人差が大きく、長期間使用しても難聴にならない人もいますし、短期間の使用で難聴になる人もいます。
 このため、薬の使用量から難聴のおこる時期を予測することはできません。したがって、難聴を感じていなくても、耳鳴りがおこったら聴力検査を受ける必要があります。
 結核などの治療のために、アミノ配糖体系薬剤を長期間使用するときには、使用前も使用中も定期的に聴力検査を受けて、難聴の早期発見に努めることがたいせつです。
 もし、難聴が始まれば、その薬の使用を中止するか、ほかの薬に切り替えます。点耳薬は、耳毒性薬剤が含まれているものが少なくないので、10日以上連続して使用しないようにします。
 アミノ配糖体系薬剤には、耳毒性だけではなく、腎毒性(じんどくせい)もあり、この薬とループ利尿薬を併用すると内耳と腎臓(じんぞう)に対する毒性が増強します。
 また、腎機能が低下している人や高齢者は薬が体内に蓄積しやすく、難聴がおこりやすくなることを念頭においておく必要があります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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