日本大百科全書(ニッポニカ) 「藩版」の意味・わかりやすい解説
藩版
はんぱん
江戸時代の諸藩または藩の学校の出版物。官版の一種であるから、藩の儒者が校訂を加え、印刷、装訂の優れたものが多いが、藩版であることを本に標示していないものは鑑別しがたい。ことに、藩版の版木を用いて、のちに書店が印刷して発行したものは、その書店の出版物と誤りやすい。多数の藩から多種類の図書が出版されたが、その内容は漢籍の翻刻、教科書、藩の編纂(へんさん)物、藩主や藩の儒者の著述などである。1842年(天保13)に幕府は10万石以上の大藩に命じて大部の漢籍を出版させた。この命令に応じて、加賀、出雲(いずも)、高松、津、高田、二本松、忍(おし)、熊本、姫路などの諸藩が1853年(嘉永6)までの間にそれぞれ1、2部ずつ出版した。
[福井 保]
『東條信耕著「諸藩蔵版書目筆記」(『解題叢書』所収・1925・広谷国書刊行会)』▽『笠井助治著『近世藩校に於ける出版書の研究』(1962・吉川弘文館)』