政府刊行物、官庁出版物の意味で、私版、私刻本など民間出版物に対応する称呼である。中国には官刻本、官刊本、官府本などの別称もある。一般に官版は政府の命令により、政府の経費を用いて出版されたので、校訂が行き届き、料紙、印刷、製本の優れているのが特徴である。
江戸時代には幕府による出版物を官版とよび、その習慣は明治初年まで続いた。徳川家康・綱吉(つなよし)・吉宗(よしむね)時代の官版や、医学館、蕃書調所(ばんしょしらべしょ)、長崎奉行所、陸軍所などの官版がある。なかでも昌平坂(しょうへいざか)学問所において1799年(寛政11)から1867年(慶応3)までに翻刻された漢学の参考書、教科書200余部は、その書名に「官版」の2字を冠し、一定の装訂を加え、出版部数が比較的多く、また広く流布したので、主としてこれをさして官版と呼び習わしている。中国の官版では明(みん)代の経廠(けいしょう)本や清(しん)代の殿版(でんぱん)が有名であり、いずれも印刷、製本の精美をうたわれ、また明・清時代の地方官庁からは地方志が多数刊行された。
[福井 保]
『杉山精一著『官版書籍解題略』(『解題叢書』所収・1925・広谷国書刊行会)』▽『内野五郎三著・刊『官版書目』(1932)』
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