平安末期の武士。越前の住人でのち武蔵国長井に移り,長井斎藤別当と称した。源氏の家人として為義に仕え,保元・平治の乱では義朝軍に加わった。のち平家に属し,富士川の戦(1180)では東国の案内者として平氏軍に加わって東下したといわれる。1183年源義仲追討のため北陸に下ったが,加賀篠原で手塚光盛に討たれた。享年50余歳とも60余歳とも,また70余歳ともいう。
執筆者:飯田 悠紀子
加賀国篠原の合戦に死を覚悟した実盛が,故郷に錦を飾るべく大将維盛の許可をえて大将にふさわしい赤地の錦の直垂(ひたたれ)を着用し,老齢をかくすため白髪を黒く染めて奮戦した話は最も有名。《平家物語》等によれば義仲は幼児のとき実盛の情けで死を免れたので,首を一目見て実盛と知ったが,白髪のはずが黒髪なので不審に思い,首を洗わせてみると白髪になった。老武者とあなどられぬための武人のたしなみとわかり,源氏方の武将はみな深い感銘を受けたという。また《満済准后日記》応永21年(1414)5月11日条に実盛の霊が加賀篠原に出現し,時宗の遊行上人が十念を授けてとむらった記事があり,当時こうした伝説類が流布していたらしい。謡曲《実盛》は遊行上人が篠原で実盛の霊をとむらうという内容で,世間に流布していた伝説類にもとづいて脚色されている。また農村では実盛は稲の株につまずいて倒れたのが原因で敵に討たれたため,その恨みによりイナゴなどの害虫となって稲を食い荒らすと信じられ,実盛の霊を供養して害虫を退散させる虫送りの行事が長らく行われてきた。そのほか実盛に関する伝説や説話は,江戸時代の浄瑠璃《源平布引滝》や歌舞伎《源家八代恵剛者(げんけはちだいめぐみのつわもの)》などに多くの素材を与えている。
執筆者:金井 清光
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平安末期の武士。藤原利仁(としひと)の子孫。父は実遠(さねとお)または実直(さねなお)。出身は越前(えちぜん)(福井県)であるが、武蔵(むさし)国播羅(はら)郡長井(埼玉県熊谷(くまがや)市)に移った。1155年(久寿2)源義賢(よしかた)(為義(ためよし)の子)が源義平(よしひら)(義朝(よしとも)の子)に討たれた際は、幼い義賢の遺児義仲(よしなか)を助け、信濃(しなの)の豪族中原兼遠(かねとお)に託した。初め源為義・義朝に仕え、保元(ほうげん)・平治(へいじ)の乱では義朝に従ったが、平治の乱で義朝が敗れ、東国に逃れる途中で別れた。その後は平氏に従い、80年(治承4)源頼朝(よりとも)が兵をあげると、石橋山でこれと戦い、ついで平維盛(これもり)に属して富士川に出陣した。83年(寿永2)にも維盛に従って北陸に出陣し、義仲と戦ったが、加賀(かが)の篠原(しのはら)の戦いで手塚光盛(みつもり)に討たれた。その際、老年を隠すため、鬢髪(びんぱつ)を黒く染めて出陣したという。
[上横手雅敬]
(櫻井陽子)
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?~1183.5.21
平安末期の武士。実直の子。長井斎藤別当と称する。代々越前国を在所としたが,実盛のとき武蔵国長井(現,埼玉県熊谷市)を本拠とする。源義朝の郎従として保元・平治の乱に参加。その後平氏に仕え,1180年(治承4)源頼朝挙兵にあたり,富士川の戦に参加。83年(寿永2)加賀国篠原(現,石川県加賀市)で源義仲軍と戦い,このとき白髪を黒く染めて奮戦し,討死をとげたという。「源平盛衰記」は享年73歳とする。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…これら害虫の発生を予防し,また発生した虫の防除にはこれを悪霊の化したものと考える思想があったため,その霊に形どってわら人形をつくりこれを村境に送って焼き捨てる行事が古く行われ,多く虫送りと呼ばれた。恨みをのんで死んだ人として西国では斎藤(別当)実盛の名がよくあげられるが,これはイナゴを別当と呼んだことから付会されたらしい。後には鯨油が駆除に使用された。…
…小万は死に,念力通じて白旗は葵御前の手に戻る。平家方は九郎助がかくまう葵御前の懐胎の子を殺そうとして,瀬尾十郎,斎藤実盛を詮議に遣わすが,実盛の情けある計らいで,無事に男子が誕生し,駒王丸と名付けられ,のちに木曾義仲となる。瀬尾は小万の実父と知って,みずから小万の子手塚太郎に討たれ,実盛は手塚に,将来戦場で再会するとき,白髪を染め,若やいで勝負しようと約束して別れる。…
…6,7月の夜に行われることが多いが,土用三郎といい土用は3日目と決まっている村もある。わら人形はサネモリ(実盛)と呼ばれ,害虫は斎藤別当実盛(斎藤実盛)の御霊(ごりよう)が化したものという伝承が西日本に広く分布する。〈実盛〉は田の虫を意味するサノムシが転訛したものとも考えられている。…
※「斎藤実盛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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