能の曲目。四番目物。五流現行曲。『申楽談儀(さるがくだんぎ)』にも記載のある世阿弥(ぜあみ)の作。ワキは紀貫之(きのつらゆき)。大雨のため蟻通明神の神前とも知らず下馬しなかったために、急に馬が倒れ伏す。老いた神官(シテ)が登場し、この神が物咎(ものとが)めすることを語り、神慮を鎮めるための詠歌を勧める。「雨雲のたち重なれる夜半(よは)なれば有りと星(蟻通)とも思ふべきかは」と詠じた和歌の徳に神の怒りは解け、神官は神楽(かぐら)を捧(ささ)げ、自分が神の化身であることを告げて消える。暗夜の神域の厳しく清澄な雰囲気を描く能で、同じく歌人の西行(さいぎょう)をワキとし、月の清夜の風雅を主題とした『雨月』とは対照的な曲である。
[増田正造]
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
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