足の部分にまとう旅行具。字によって形式を異にする。〈行縢〉は長途の歩行用として布帛(ふはく)類を細長く裁って足首からひざの下にかけて巻きつける形式で,中国宋代の陸游の詩の中に〈明日,布をさきて行縢を縫う〉とあるのも,《万葉集》に〈うつばりに行縢かけて息むこのきみ〉とあるのもこの形式のものを推量させるし,徒歩用の甲冑(かつちゆう)である短甲にも行縢を付属させ,これを錦や絁(あしぎぬ)で仕立てたとある(〈東大寺献物帳〉)。〈行騰〉は騎馬用のものを指し,雨湿に備えて毛皮で上腿部の表面を中心にまとう形式をいう。鷹飼(たかがい)の間では,正式の装束として熊皮の行騰をつけることを規定しており,武士もこれを,遠旅や狩猟の際はもちろんのこと,馬上の武技としての流鏑馬(やぶさめ),笠懸(かさがけ),犬追物(いぬおうもの)の装束の必需品とし,鹿皮製のものなどを用いた。平安時代のころは大腿部からひざをおおう程度であったが,しだいに長くなって,裾開きとし,裾の両側を折り返して,すねの後ろで結び合わせるのを普通とした。鎌倉時代の末から形式化して上部を広くして大腿部の両側を折り返して背後で結び,裾は折らずに細長くたらすだけとなって,様式を後世に伝えた。
執筆者:鈴木 敬三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
武士が旅や猟をする際に、袴(はかま)の上から着装する服飾品の一種。袴をはいていても、乗馬していばらの道を通れば足を痛めることが多いので、武士はこれをはくことによって、その災いから逃がれることができた。行縢は、「向こう脛巾(はばき)」の語から転じたものである。また、これは鎌倉時代、武家社会において流鏑馬(やぶさめ)、犬追物(いぬおうもの)、笠懸(かさがけ)などを行うときに射手方によって着装され、以後普及したものである。
[遠藤 武]
…哺乳類の皮膚をはいで,毛をつけたままなめしたものを毛皮(けがわ∥もうひ)という。これに対して毛を除く処理をしてなめしたものを革(かわ)という。毛皮は古くから優れた防寒衣料として用いられ,またその希少価値から高価な装飾品として取り扱われるが,毛皮動物の養殖の成功と加工技術の進歩によって大衆化されてきた。
[原料毛皮]
動物の毛は表皮が変化して角質化したもので,その主成分はケラチンというタンパク質である。…
※「行縢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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