男衾三郎絵巻(読み)おぶすまさぶろうえまき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「男衾三郎絵巻」の意味・わかりやすい解説

男衾三郎絵巻
おぶすまさぶろうえまき

地方武士物語を題材とした絵巻。1巻。武蔵(むさし)国に男衾三郎という武勇に富む弟と、吉見(よしみ)二郎という風雅な都ぶりの生活を好む兄の兄弟があった。吉見は宮仕えのため上京途上山賊に襲われ、非業最期を遂げる。男衾は兄の死後その妻子を虐待(ぎゃくたい)し、武蔵の国司が兄の娘を見そめて迎えようとすると、男衾の妻はこれをねたみ、偽って醜い自分の娘を勧め、国司の恋も悲恋に終わる。通俗的な内容をもって御伽草子(おとぎぞうし)的な性格を感じさせるが、絵は鎌倉時代(13世紀)の大和絵(やまとえ)の画風をよく伝え、とくに花鳥草木の自然描写に富み、繊細で情趣深い画面を構成している。東京国立博物館蔵。

[村重 寧]

『『日本絵巻大成12』(1978・中央公論社)』『『新修日本絵巻物全集18』(1979・角川書店)』


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山川 日本史小辞典 改訂新版 「男衾三郎絵巻」の解説

男衾三郎絵巻
おぶすまさぶろうえまき

武蔵国在住の武士の生活と継子いじめを題材とした絵巻物。後半を欠く1巻のみ現存。13世紀末成立。都風の優雅な生活を送る兄吉見二郎,武道一途の弟男衾三郎の兄弟は,大番(おおばん)警護に上京するが山賊に襲われ,兄は非業の死をとげる。その後,陰謀によって許嫁(いいなずけ)も出家し,後楯を失った二郎の女(むすめ)慈悲と母は,三郎の家で下女とされ虐待をうける。後半は失われているが,観音の利生による慈悲親子の救済が暗示される。御伽草子の先例としても貴重。絵は各段に春・夏・秋の背景をあてて季節的構成をとり,草花や鳥獣を細やかに描く。1295年(永仁3)頃の「伊勢新名所絵歌合」に酷似した画風を示す。広島藩主浅野家伝来。縦29.2cm,横1253.7cm。東京国立博物館蔵。重文。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「男衾三郎絵巻」の意味・わかりやすい解説

男衾三郎絵巻
おぶすまさぶろうえまき

武蔵の国に住む武士の兄弟 (吉見二郎,男衾三郎) と彼らの娘の物語を絵巻としたもの。 13世紀末~14世紀初めの制作。紙本着色,1巻 (別に残欠現存) 。文化庁蔵。物語は現在結末部を欠くが,おそらく観音の申し子である美しい娘とその求婚者の恋愛を中心とする霊験譚と思われ,現存1巻のほかにもう1巻あったと推定される。癖の強い筆づかいで人物の表現などはあらいが,自然景の描写には独特の詩情があり,『新名所絵歌合』 (1291/5) と同筆とみられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「男衾三郎絵巻」の解説

男衾三郎絵巻
おぶすまさぶろうえまき

鎌倉末期の絵巻物
13世紀末の成立。1巻。作者不詳。武蔵の住人男衾三郎という武勇にすぐれ,あえて関東一の醜女を妻とした男と,宮仕えをした女をめとった風流な兄吉見二郎の一家を対照的に描いた物語。

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