証券の分析を業務とする専門職のこと。歴史的には、外部投資者の立場から財務諸表を素材として個別企業の投資品質を分析・評価し、投資情報として個人投資家や機関投資家に提供する業務が伝統的であったが、今日では証券業務の多様化や複雑化に伴い、その定義にも広範な領域を含むようになった。基本的には、投資家の意思決定に役だつことを目ざして、証券や証券市場に関してなんらかの分析・評価作業に携わっている人々を総称する。したがって、証券アナリストの今日的定義は、エコノミスト(経済の調査・分析・予測を行う専門家)、投資ストラテジスト(投資戦略を立案する専門家)から、場合によってはファンドマネージャー(資産運用を行う専門家)をも含む、きわめて弾力性に富んだものとなっている。
アメリカでは、証券アナリスト業務の公共性から、公認アナリスト(Chartered Financial Analyst=CFA)の試験制度が導入されており、三次までの認定試験に合格した者にCFAの資格が与えられる。CFAは国家資格ではないが、今日では医師や弁護士などに準じる社会的評価を得ている。認定試験は、1959年設立のアメリカ公認フィナンシャル・アナリスト協会(The Institute of Chartered Financial Analyst=ICFA)が1963年以降運営してきた。しかし、ICFAは1990年にアメリカ投資運用調査協会(Association for Investment Management and Research=AIMR)の傘下に統合され、さらに2004年にAIMRはCFA協会(CFA Institute)に名称変更された。現在、CFAの認定試験はCFA協会により実施されている。
日本では、1962年(昭和37)設立の社団法人日本証券アナリスト協会が1979年から第二次レベルまでの通信教育と試験を実施しており、試験合格者には日本証券アナリスト協会検定会員(Chartered Member of the Securities Analysts Association of Japan=CMA)の資格が与えられる。ただし、職業倫理にかかわる講習を修了した第一次レベル試験合格者および実務経験3年未満の第二次レベル試験合格者は、検定会員補(Candidate for CMA=CCMA)として登録することになる。第二次レベル試験合格者がただちにCMAとして認定されないのは、証券アナリストの要件として、高度な専門知識の保有だけでなく、相応の実務経験が必要と判断されているからである。受験・試験科目は、経済、財務分析、証券分析とポートフォリオ・マネジメントの3科目(ただし、第二次レベル試験では、職業倫理・行為基準を加えた4科目)で構成されている。CMAやCCMAを目ざす受験者は、証券会社、銀行、生命保険・損害保険やこれらに付属する調査・研究機関のスタッフが多数を占めるが、今日では一般事業会社の社員や学生も増加傾向にある。これらのうち企業に属する証券アナリストにとっては、いかに所属機関から独立した専門職としての地位を確立するかが課題となる。なお、CMAには、アジア、ヨーロッパ、中南米等の35のアナリスト協会からなる国際公認投資アナリスト協会(The Association of Certified International Investment Analysts=ACIIA)により運営・管理されている国際公認投資アナリスト(Certified International Investment Analysts=CIIA)の資格試験を受験する道が開かれている。
証券アナリストの投資社会における地位向上とともに、その判断が株価の騰落を招いたり市場方向性に影響を与えたりするケースもみられるようになった。確かに、日本においても、証券アナリストの能力水準は着実に向上しており、分野によっては学界をしのぐような高レベルのレポートも提出されている。けれども、証券アナリストの業務は将来予測とかかわるだけに、ともするとその当否がアナリストの評価に直結しがちである。CFAやCMAという資格取得は、証券界におけるパスポートのように位置づけられるが、パスポートの所持が海外であらゆるトラブルを回避できるわけではないのと同様、資格はゴールではない。証券アナリストの存在意義は、証券投資という荒海を乗り切るための羅針盤的機能を担うことであり、科学的かつ客観的な視点から情報を提供することである。証券アナリストへの評価は、不可知な将来予測に対する結果的な当否ではなく、論理的な整合性によってなされるべきであり、情報の受け手もそれを認識する必要がある。
[高橋 元]
(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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