尋問者が期待する答えを証人に示唆,暗示するような質問。誘導質問ともいう。英米法の〈leading question〉の訳語である。たとえば,証人の経験した事実の生じた時刻を尋ねる際に〈それは何時ごろでしたか〉と問うべきところを〈それは午後9時ごろではありませんか〉と問うのは誘導尋問である。また〈あなたの聞いた物音は助けを求める女性の悲鳴に似ていましたか〉というように,過度に具体的な質問も誘導尋問になる。イエスまたはノーで答えられる質問が誘導尋問であるといわれることもあるが,質問の形式のみからではなく,質問までの尋問の経過や言葉の調子などをも加味して誘導か否かが判断される。刑事訴訟規則には証人尋問の方法が定められており(199条の3,199条の4),証人を申請した側が行う主尋問では原則として誘導尋問は許されないことになっている。これは質問者と証人が友好的な関係にある場合に誘導が行われると,暗示に従った迎合的な供述がなされるおそれがとくに強いと考えられるからである。したがって,質問者と証人にこのような関係がない反対尋問では誘導尋問も許される。また主尋問であっても証人が質問者に敵意・反感を示すときは,迎合のおそれが乏しいので誘導尋問が許される。このほか,証人の身分,経歴など準備的な事項や争いのない事項を尋ねる場合も誘導を許したほうが尋問が円滑に進行するので誘導尋問が許され,また証人の記憶が明らかでない事項について記憶を喚起するため必要があるときも誘導尋問が許されている。ただし,どの場合も裁判長は相当でない誘導尋問を制限することができる(なお,民事訴訟でも不相当な誘導質問は制限される。民事訴訟規則35条)。とくに証人を困惑させる〈誤導尋問misleading question〉は許されない。たとえば,目撃証人の尋問の際,まだAを見たと供述していない証人に対し〈Aはどんな服装でしたか〉と問うのは誤導尋問である。
→証人
執筆者:酒巻 匡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
尋問者の期待する供述を示唆するような尋問をいう。典型的な場合は、「はい」「いいえ」で答えることが可能な形での尋問である。たとえば、何時であったかと問うのはよいが、午後5時ではなかったかと問うのは誘導尋問になる。主尋問、再主尋問では原則として誘導尋問は許されない(刑事訴訟規則199条の3第3項、199条の7第2項)。主尋問の場合には、尋問者と供述者が友好的な関係にあり、示唆に迎合して供述する危険が大きいからである。これに対して反対尋問の場合には、そのような関係がないから誘導尋問も許される(同規則199条の4第3項)。それゆえ、主尋問の場合でも、迎合の危険がなければ許される(同規則199条の3第3項但書、199条の7第2項)。とはいえ、裁判長は、相当でないと認めるときはどのような場合にも制限することができる(同規則199条の3第5項、199条の4第4項、199条の7第2項)。
[大出良知]
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