日本大百科全書(ニッポニカ) 「豆腐百珍」の意味・わかりやすい解説
豆腐百珍
とうふひゃくちん
江戸時代の料理書。正編1782年(天明2)、続編1783年刊。著者は醒狂道人何必醇(せいきょうどうじんかひつじゅん)。実名は大坂の篆刻(てんこく)家曽谷学川(そやがくせん)と推定されている。内容は、豆腐料理を尋常品、通品(つうひん)、佳(か)品、奇(き)品、妙(みょう)品、絶(ぜっ)品の六等に分けて、正続とも100品ずつ製法を記述している。続編には付録として、鯉(こい)こくのように豆腐が主でない料理38、豆腐料理の古名、詩歌など豆腐雑話11項がある。『豆腐百珍』の出版は好評を博し、その波に乗じて「百珍物」が続出する。年代順にみると、1785年(天明5)に『萬宝(まんぽう)料理献立集』『萬宝料理秘密箱』前編が出た。著者は京都の器土堂(きとどう)。前書の目録題に「卵百珍」とあり、後書の再版の見返しに「一名玉子百珍」とあり、ともに卵百珍といわれたので、読者は混乱したようだ。同じ年に『鯛(たい)百珍料理秘密箱』も器土堂の著作で刊行された。鯛料理100種が書かれている。1789年(寛政1)には『甘藷(いも)百珍』が出た。著者は珍古楼主人。『豆腐百珍』に倣って、甘藷(かんしょ)の製品を奇品、尋常品、妙品、絶品の四等に分けて123種が記載されている。百珍物とよばれた材料別料理書のなかではもっとも版を重ねている。『海鰻百珍(はむりょうり)』が刊行されたのは1795年(寛政7)。著者名なし。内容は全身、肉、皮、腸の料理に分けて113種のハモの料理法が書かれている。1846年(弘化3)には『蒟蒻(こんにゃく)百珍』が出た。著者は嗜蒻陳人(しにゃくちんじん)で、こんにゃく好きの老人の意か。味噌懸(みそかけ)から玉すだれまで82品の料理が記されているが、料理名が異なっていても作り方が同じものもある。
[小柳輝一]
『『翻刻江戸時代料理本集成(5)』(1980・臨川書店)』