大豆加工食品の一つ。大豆を水に浸してひきつぶし、煮て漉(こ)した豆乳に凝固剤を加えて固める。口あたりがよく、大豆の堅い部分が除かれているので食べやすい。また淡泊な風味で各種料理に応用しやすい。
[河野友美・山口米子]
中国前漢の高祖の孫、淮南(わいなん)王劉安(りゅうあん)(在位?~前122)が発明したという伝承があり、豆腐の異称を「淮南」ともいう。その原料として、黒豆、黄豆、白豆、泥豆、豌豆(えんどう)、緑豆があげられている(『本草(ほんぞう)綱目』)。しかし、実際は唐代(618~907)に始まったとみられ、日本へ渡来した時期は不明で、平安時代の記録に「唐符」が春日(かすが)大社への供物として残されている。一般に広まったのは室町時代以降のようである。『庭訓往来(ていきんおうらい)』(南北朝後期~室町前期)には、禅院の料理として豆腐羹(かん)、雪林菜(せつりんさい)がみえる。雪林菜は「きらず」のことで雪花菜(おから)とも書かれた。豆腐のことを女房詞(にょうぼうことば)で「かべ」「おかべ」「しらかべ」「しろ物」などともいった。色や形が白壁に似ているためである。江戸時代には『料理物語』(1643)や『豆腐百珍』(1782)に数多くの料理が紹介されている。
豆腐は、古くは奈良や宇治(うじ)の名物であったが、江戸時代には、京都の祇園(ぎおん)豆腐(田楽(でんがく))、南禅寺(なんぜんじ)の湯豆腐、江戸の笹(ささ)の雪(湯豆腐)など名代の店も現れた。
豆腐は、形こそほとんど変わらないが、材料などにくふうが加えられ、かなり多くの種類ができている。
[河野友美・山口米子]
豆腐のなかで、もっとも古くからつくられていたのが木綿漉(ご)しとよばれる普通豆腐で、このほか絹漉し豆腐、ソフト豆腐、味つけ豆腐、充填(じゅうてん)豆腐(袋豆腐)、加工品としては、焼き豆腐、油揚げ(薄揚げ)、生(なま)揚げ(厚揚げ)、凍(こお)り豆腐(凍(しみ)豆腐)、がんもどき(雁擬)などがある。また、大豆以外のものを原料としたものでも豆腐の形状をしているところから、ごま豆腐、落花生(らっかせい)豆腐(沖縄ではジーマミ豆腐)、卵豆腐などの名前がつけられている。
[河野友美・山口米子]
水に浸(つ)けて柔らかくした大豆を、水を加えながら粉砕機(以前は石臼(いしうす))ですりつぶす。これを呉(ご)といい、呉にさらに水を加えて釜(かま)で煮て沸騰させるか蒸気を吹き込んで加熱する。加熱により大豆の青臭みがとれ、タンパク質も液中に溶け出す。次にこれを布袋に入れて絞って濾過(ろか)し、豆乳とおからに分ける。豆乳が70℃くらいに冷めたところで、凝固剤を加える。各豆腐により凝固剤の加え方や固め方が異なる。凝固剤としては、天然にがりが以前使用されていたが、現在は、このほか人工にがり、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコノデルタラクトンなど各種のものが加えられる。
木綿漉し豆腐の作り方は、豆乳がいくぶん冷めて70℃ぐらいになったころに凝固剤を入れる。凝固剤を加えると、豆乳中のタンパク質が固まってくるので、そのまましばらく静置したあと、もろもろした状態の凝固物を箱に流し込む。この箱は四方に小穴をあけたもので木綿布を敷いてある。余分の水分は、木綿布で漉され、小穴から流れ出る。型箱の上には落し蓋(ぶた)をして、重石(おもし)をのせ、水けをきる。豆腐が十分固まったら、箱のまま水に入れて豆腐を抜き出し、しばらく水に浸す。余分の凝固剤が溶け出し、味がよくなる。適当に切って製品とするが、普通、豆腐1丁は300グラムが標準である。大豆1キログラムからは約4~5キログラムの豆腐がとれる。型箱で固めるとき木綿布で漉すので、木綿漉し、または木綿豆腐という。切り口の面のところどころに穴がみられ、食感は少し粗い。また、漉したときの布目が豆腐についているのも特徴である。
絹漉し豆腐は、木綿豆腐のように水きりをせず、豆乳全体を固めたものである。木綿豆腐に比べ水分が多く柔らかなところからついた名称で、絹布で漉すわけではない。絹漉し豆腐は豆乳をいくぶん濃いめにつくる。型箱は穴のないものを用いる。凝固剤をあらかじめ溶いて型箱に入れ、その中に熱い豆乳を流し込み、そのまま静置して凝固させる。表面が滑らかで舌ざわりはよいが、柔らかいので取扱いがむずかしい。ソフト豆腐、充填豆腐は、豆乳に凝固剤を混ぜ、一定の包装型に入れてつくり、90℃ぐらいの熱湯中に40分ほど浸して凝固させ、水槽で冷却する。そのほか、中国式の作り方をする沖縄豆腐、十分な水切りをしないくみ上げ豆腐などがある。焼き豆腐は、木綿豆腐を焼いて焦げ目をつけたもので、焼き色と、焼いた香りがつく(現在はバーナーで焦げ目をつける)。くずれにくくなるので、鍋物(なべもの)などによく使われる。揚げ豆腐は、豆腐を薄く切ったものを一般に油揚げ(薄揚げ)といい、厚切りを生揚げ(厚揚げ)という。凍り豆腐の製法は、固めにつくった豆腐を冷凍し、氷の結晶を大きく成長させたのち、湯で溶かして乾燥させる。がんもどきは、豆腐をくずして、ゴボウ、ニンジン、ゴマ、昆布、アサの実などを混ぜて油で揚げたもの。
[河野友美・山口米子]
豆腐は大豆タンパク質を豊富に含む食品であるが、木綿豆腐と絹漉し豆腐、ソフト豆腐、充填豆腐では、タンパク質の量に差がある。よく締まっている木綿豆腐ほどタンパク質が多い。豆乳の成分中、木綿豆腐では水とともに水溶性ビタミンが溶出しやすいが、豆乳全体を固める絹漉し豆腐のほうは、ビタミンの溶出はない。
[河野友美・山口米子]
『渡辺篤二・斎尾恭子・橋詰和宗著『大豆とその加工 1』(1987・建帛社)』▽『渡辺篤二監修『やさしい豆腐の科学』改訂版(1996・フードジャーナル社)』▽『福田浩・杉本伸子・松藤庄平著『豆腐百珍』(1998・新潮社)』▽『仁藤斉著『食品加工シリーズ4 豆腐――おいしいつくり方と売り方の極意』(2000・農山漁村文化協会)』▽『アスペクト編・刊『至宝の伝統食3 豆腐』(2000)』▽『森井源一著『豆腐道』(2004・新潮社)』▽『添田孝彦著『日本のもめん豆腐』(2004・幸書房)』
ダイズを原料とする加工食品の一種。豆腐の〈腐〉はくさる意味ではなく,中国でヨーグルトを乳腐というように,固体であって柔らかく弾力のあるものをいう。漢の高祖の孫になる淮南(わいなん)王劉安(りゆうあん)が創製したといい,淮南遺品という異名もある。ただし,これは俗説で,劉安の著作である前2世紀の《淮南子(えなんじ)》はもとより,6世紀の《斉民要術》にも,その後の隋・唐の諸書にも豆腐の字は見られない。乳腐の字は唐末になって見られるが,豆腐は宋の《清異録》にいたって初めて見られる。おそらく,北方から伝わった乳腐にヒントを得て発明されたもので,その時期は8~9世紀の唐代中ごろと,篠田統は推定している。
日本の文献では,1183年(寿永2)の奈良春日大社の記録に見えるのが古く,鎌倉時代には1280年(弘安3)の日蓮の手紙に〈すり豆腐〉の名が見える。南北朝から室町期に入ると,豆腐の記事は日記類を中心にして急増し,室町後期の《七十一番職人歌合》には白い鉢巻をした女の豆腐売が描かれ,〈とうふ召せ,奈良よりのぼりて候〉と書かれている。歌のほうには奈良豆腐,宇治豆腐の名が見え,当時奈良や宇治が豆腐どころであったこと,この両地から京都にまで豆腐売が通っていたことがわかる。やがて大消費地であり,水のよい京都でも盛んにつくられるようになり,豆腐は京都名物の一つに数えられるようになった。江戸時代に入ると,大坂や江戸にも名代(なだい)の豆腐ができた。大坂では高津(こうづ)神社石段下の高津豆腐,江戸では錦(にしき)豆腐,一名色紙(しきし)豆腐と華蔵院(けぞういん)豆腐が早くから知られ,のちには淡雪豆腐,吉原豆腐などが有名であった。豆腐料理店は各地にあったが,最も古いのは慶長年間(1596-1615)までにできた京都祇園社境内の二軒茶屋で,祇園豆腐と呼ぶ田楽を売物にし,江戸にもこれを称する店が多くあった。東海道の目川(めがわ)(現,滋賀県栗東町)の田楽も有名で,これも同名の店を続出させた。京都の南禅寺湯豆腐,江戸根岸の笹(ささ)の雪も評判の店で,〈南禅寺何こちらにも笹の雪〉と江戸の川柳子は力んでいる。こうして1782年(天明2)には約100種の豆腐料理を記載した《豆腐百珍》が刊行され,その好評に乗じて《豆腐百珍続編》《豆腐百珍余録》が続刊されるほどであった。
豆腐は,植物性食品の中ではタンパク質,脂質を多く含み,消化吸収のよいすぐれた食品である。持味が淡泊なのできわめて利用範囲が広く,あらゆる調理法に適するといっても過言ではない。湯豆腐,冷ややっこをはじめ,汁の実,なべ物の具,あん掛け,田楽,煮物のほか,揚出し豆腐,いり豆腐,擬製豆腐,滝川豆腐などが知られる。湯豆腐,冷ややっこはいずれも3.5cm角程度の〈やっこ〉に切った豆腐を,暖めるか冷やすかして,つけじょうゆで食べるが,豆腐そのものを味わうにはこれらに勝るものはない。湯豆腐の場合は,湯の中で豆腐を煮るかげんが重要で,なべ底の豆腐に熱が通って震動し始め,表面へ浮かび上がろうとするころあいをすくい取って食べるのが,うまく食べるこつである。あん掛けは薄めの色紙形に切ったものを暖め,葛(くず)あんをかけて,ときガラシをちょっと載せる。揚出し豆腐は,水けを切った豆腐をそのまま油で揚げて,おろしたダイコンとショウガを薬味にして,しょうゆで食べる。東京上野にあった料亭〈揚出し〉でやっていたのがこれで,片栗粉をつけて揚げたものの味とは格段の相違である。いり豆腐は熱湯を通してかたくしぼった豆腐を崩して少量の油でいため,酒,砂糖,塩,しょうゆなどで味つけし,下煮しておいたニンジン,キクラゲなどを加えていりつける。擬製豆腐は,崩した豆腐にニンジン,青豆,アサの実などを加えて調味し,鶏卵をつなぎに入れて蒸し固める。滝川豆腐は暑中の佳肴(かこう)というべきもので,水けを切った豆腐1丁をすりつぶし,寒天1本を1.5カップの水またはだしで煮溶かしたものと合わせて流し箱に流し入れ,冷蔵庫に入れて冷やし固める。これをところてん突きで突き出し,調味しただしをかけ,ワサビか青ユズの皮をおろしたものを載せて供する。中国料理にもいろいろに使われるが,とくに日本では麻婆豆腐(マーポートウフー)に人気がある。また,アメリカではダイエット食品として豆腐ステーキなどが愛好されている。
一晩水につけておいたダイズに水を加えながら,どろどろにすりつぶす。これを〈ご(呉)〉といい,この〈ご〉に水を加えてかまで煮る。10分あまり沸騰させ,布袋に入れてしぼって豆乳をとる。しぼりかすが卯の花(うのはな)(おから)である。豆乳の温度が70℃くらいにさがったところで凝固剤(もとは,にがりを用いたが,今は硫酸カルシウムが多い)を加えてかきまぜ,たくさん穴をあけた型箱に綿布を敷いて,そこへ移して凝固させる。この状態のものを〈くみ豆腐〉または〈おぼろ豆腐〉といい,おもしをかけて水分(〈ゆ〉と呼ぶ)を切ると,木綿豆腐(木綿ごしとも)ができる。絹ごし豆腐は〈ご〉の水かげんを少なくした濃いめの豆乳を穴のない型箱に入れてそのまま凝固させるもので,おもしを用いないので表面が滑らかなものになる。また,木綿ごしでは凝固しないビタミンB1,糖質,無機質などの一部が廃液とともに流失するが,絹ごしでは廃液を出さないためそれらの損失はない。充てん豆腐と呼ばれるのは,絹ごしよりやや薄めの豆乳に凝固剤をまぜてプラスチック製の容器に入れ,密封したのち加熱,凝固させたもので,完全な殺菌が行われている。豆腐の二次加工品には,油揚げ,生揚げ(厚揚げ),がんもどき,凍豆腐(高野豆腐),焼豆腐などがあり,豆乳からは湯葉がつくられる。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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字通「豆」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…また美味を競うだけにとどまらず,材料の費用と手のこんだ調理の費用まで競いあったという。なお,豆腐は漢の淮南王(わいなんおう)劉安の発明とされるが,宋初に出現した。唐末五代の事がらを記す《清異録》に初見する。…
※「豆腐」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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