改訂新版 世界大百科事典 「会計原則」の意味・わかりやすい解説
会計原則 (かいけいげんそく)
accounting principles
企業が経営成績や財政状態を株主,債権者,一般投資家などに報告開示するため,貸借対照表,損益計算書などの財務諸表を作成する場合,多くの取引や科目の会計処理にあたって,いくとおりもの会計方法のなかから一つを選択適用することになる。その際に,選択される方法が企業ごとに異なると,財務諸表の金額の根拠および性格の不統一を生む。そして,財務諸表についての企業間比較を妨げ,また金額の意味について,情報利用者に誤解を与える。企業の経営者が財務諸表作成にあたって意図的に粉飾を行う可能性につき,会計士が監査してそれを抑制するためにも,会計方法の選択を一定の範囲内に制限する必要が認識されるようになった。このような事情から設けられる,会計方法の選択に関する指針あるいは規制を会計原則もしくは会計基準と呼ぶ。会計原則上,どのような会計方法が排除され,どのような会計方法が望ましい方法もしくは容認しうる方法として受け入れられるかは,それまでに発展してきた実務の大勢を受け入れるか,会計の目的もしくは基礎概念にもとづいて演繹(えんえき)的に導き出すかの二つのアプローチをどのように選ぶかによって左右される。現在のところ,それぞれの国ごとに,それらの併用のうえで,多様な取組み方が発展している。
会計原則は1920年代までは,明文上の文言では規定されず,会計士が,会計監査もしくは指導上の判断において,ケースごとに適用表明する,共通的な認識・評価基準として受けつがれた。〈一般的に受け入れた基準〉〈適正〉〈真実かつ公正〉などの抽象的な表現が用いられるのは,このような事情による。しかしアメリカにおいて,30年代以降,会計原則の明文化が試みられ,現在では,世界的に明文によって会計原則を明らかにする努力が進められている。明文化された会計原則にどのような根拠で強制力を与えうるかは,それぞれの国の歴史的・社会的事情により異なる。アングロ・サクソン系諸国の会計的伝統においては,会社法そのものには原則的な規定を設けるにとどめて,その付則にやや詳しい規定を定めるものの,慣習法により,あるいは会計士協会の審議の結果にしたがって会計原則の内容を定める場合が多い。アメリカでは,州法としての会社法のほかに,連邦法としての証券関係法令にもとづく証券取引委員会(SEC)の規定に支えられて,会計士協会が定める会計原則が制度的に受け入れられていたが,近年,会計原則を審議決定する機能は,新設された財務会計基準委員会Financial Accounting Standards Board(FASB)にゆだねられている。日本では,大蔵大臣に対する諮問機関である企業会計審議会が答申する企業会計原則その他の意見書が会計原則としての取扱いをうけているが,商法における会社の計算の諸規定および商法総則の会計帳簿に関する諸規定との関係は不明確で,問題を残している。
→国際会計基準
執筆者:中島 省吾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報