監査基準(読み)かんさきじゅん(英語表記)auditing standards

日本大百科全書(ニッポニカ) 「監査基準」の意味・わかりやすい解説

監査基準
かんさきじゅん
auditing standards

監査人(公認会計士または監査法人)が監査を行うにあたって守るべき基準。1938年アメリカで医薬品卸売会社のマッケソン・ロビンス会社事件が起きたが、そこで、長年にわたる同社幹部の多額の粉飾を、監査を行っていた同国の代表的会計事務所が発見できなかったことが問題とされた。監査は、犯罪捜査と異なり、証拠入手にあたり時間的・経済的制約を受け、無制限に監査手続を拡大することはできない。そこで、監査人の責任の限界を明らかにするうえで、どの程度の監査手続を実施すべきかに関する基準が要請された。アメリカ公認会計士協会は、1947年に、監査手続にとどまらず、財務諸表監査全般にわたる規範を「一般に認められた監査基準」として発表した。

 日本では、証券取引法(現、金融商品取引法)に基づく正規の財務諸表監査の実施を前に、1956年(昭和31)に大蔵省企業会計審議会(2001年以降金融庁に移管)から「監査基準」が発表された。その内容は、監査人の適格性の条件および業務上守るべき規範を明らかにした一般基準、監査手続の選択適用を規制する実施基準、および監査報告書の記載要件を規律する報告基準からなる。これまで、監査基準は何度か改訂されてきたが、とくに大きな改訂は、1991年(平成3)の監査基準の改訂で、従来記載されていた監査実施準則における具体的な監査手続(予備調査の手続、取引記録の監査手続、財務諸表項目の監査手続など)についての記載が取りやめとなった。これは、監査の高度化、国際化などに対応して監査基準を補足する具体的な指針を示す役割は日本公認会計士協会にゆだねられることとなったためである。したがって、監査基準では原則的な規定を定め、監査基準を具体化した実務的・詳細な規定は日本公認会計士協会の監査実務指針にゆだね、両者により日本における一般に公正妥当と認められる監査の基準とすることとした。

 なお、この監査基準のほかに、監査役が守るべき「監査役監査基準」(公益社団法人日本監査役協会)や企業の内部監査人が守るべき「内部監査基準」(一般社団法人日本内部監査協会)も公表されている。

[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]

『長吉眞一著『監査基準論』第3版(2014・中央経済社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「監査基準」の意味・わかりやすい解説

監査基準 (かんさきじゅん)
auditing standards

監査とくに企業の会計監査が職業的専門家によって行われるについては,賦与された権限と関係者の信頼とにこたえるだけの要件が具備されねばならない。職業的監査人(公認会計士など)は,財務諸表の監査を行うにあたり,監査実務上公正妥当と認められる原則に従うこと,および監査報告書においてその原則に従って監査を行った旨を表明することを職業的責務としている。このような原則を監査基準と呼ぶ。監査基準は,一般に,監査一般基準,監査実施基準および監査報告基準によって構成される。日本では,公認会計士による会計監査制度の本格化に対応して,1956年に企業会計審議会により監査基準が設定公表された。また,あわせて監査実施準則および監査報告準則が定められ,これらが一体となって監査制度の基礎を構成している。一般基準は,監査人の適格性の条件および監査人が業務上守るべき規範を明らかにしている。実施基準は監査手続の選択適用を規制する原則を示し,実施準則は具体的に監査実施の要件を定めて監査人の任務の範囲を明らかにしている。報告基準は監査報告書の記載要件を律しており,報告準則は,監査報告書の基本的様式,記載事項,意見表明等の具体的要件などを示している。これらは,証券取引行政上の大蔵省令および通達にとりいれられ,日本の公認会計士監査の実務を基礎づけている。
会計監査 →会計原則
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百科事典マイペディア 「監査基準」の意味・わかりやすい解説

監査基準【かんさきじゅん】

職業的会計士(公認会計士等)が財務諸表監査に当たって遵守すべき基準を成文化したもの。1956年設定。監査一般基準,監査実施基準,監査報告基準からなる。監査意見の表明に社会的意義をもたせる役割を果たしている。企業会計原則とともに日本の財務会計の近代化に貢献した。→会計監査監査役
→関連項目財務会計

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「監査基準」の意味・わかりやすい解説

監査基準
かんさきじゅん
auditing standards

監査人が財務諸表の監査を行なうに際して遵守すべき規範として成文化されている基準をいう。日本では 1950年に大蔵省の企業会計審議会の前身 (経済安定本部企業会計制度対策調査会) が,証券取引法の定める財務諸表監査を実施するための基準として制定して以来,数次の改訂を経て,現在に引き継がれている。監査基準を補足する監査実施準則および監査報告準則とともに,監査人のよりどころとして証券取引法だけでなく,商法に基づく監査でも広く利用することができる。企業活動の国際化に対応して,国際監査基準ともいうべき「監査の国際的ガイドライン」が国際会計士連盟によって制定されている。

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