貴志祐介(読み)キシユウスケ

デジタル大辞泉 「貴志祐介」の意味・読み・例文・類語

きし‐ゆうすけ〔‐イウすけ〕【貴志祐介】

[1959~ ]小説家大阪の生まれ。阪神・淡路大震災と多重人格障害をテーマとした「十三番目の人格ペルソナ ISOLA」で作家デビュー。「黒い家」で日本ホラー小説大賞受賞。他に「青の炎」「硝子ガラスのハンマー」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「貴志祐介」の意味・わかりやすい解説

貴志祐介
きしゆうすけ
(1959― )

小説家。大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業。生命保険会社に8年間勤務した後、作家を志してフリーとなる。実作は、大学時代からSF雑誌を中心に投稿を繰り返していたという。1996年(平成8)、阪神・淡路大震災と多重人格障害をテーマにした『ISOLA』が第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作となり、『十三番目の人格(ペルソナ) ISOLA』と改題して刊行され作家デビューをはたす。同作品は2000年『ISOLA 多重人格少女』として東宝で映画化された(監督水谷俊之)。

 97年、全選考委員の激賞を浴びた『黒い家』が第4回日本ホラー小説大賞を受賞。自身経歴を生かしての、生保業界に題材をとったホラー作品だが、超常現象的な要素はいっさい扱わず、ありふれた日常の世界で、誰しもが持っている醜い欲望と妄執を描いている点が現代的であり、たった一人の「邪悪なる人間」を登場させるだけで、血も凍るような恐怖を描くことに成功している。のちに本書を彷彿とさせるような事件が現実に起きたことでも注目された。本作品も映画化された(1999・松竹・監督森田芳光)。

 98年『天使の囀(さえず)り』を刊行。研究調査でアマゾンへおもむいたグループが次々と謎の自殺を遂げる事件が発生。だが犠牲者たちは死の直前に、途方もない快楽を体験する。読者に恐怖を与えることを目的とするのではなく、恐怖そのものの正体を描こうとした野心作

 99年の『クリムゾン迷宮』は一転してSF仕立てのサバイバル・ゲーム小説、同年刊行の『青の炎』は倒叙形式ミステリー(犯人側から計画、手段、実行の様子などが描かれ、今度は逆に警察が犯行を暴くという、普通のミステリーとは反対の展開をするもの)とも読める青春小説、と一作ごとに作品の幅を広げていく。なお『青の炎』は2003年東宝で映画化された(監督蜷川幸雄)。

 2004年、初めての本格ミステリー『硝子(ガラス)のハンマー』を刊行。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、同じフロアには役員と秘書という究極の密室状態で社長が殺されるという、今までにない意欲的なテーマに挑戦し高い評価を受けた。

 作者は自身が描こうとするジャンルについて、今まで社会派とか本格派というように要素別に発展してきたミステリーが、今はすべて統合していないと勝負にならない時代になっている、そういうなかにあって、吸引力があって、その世界に入りたくなるような、ページターナーな(次々とページをめくりたくなるような)小説を目指したいのだ、と語っている。

[関口苑生]

『『硝子のハンマー』(2004・角川書店)』『『十三番目の人格ペルソナ ISOLA』『黒い家』『天使の囀り』『クリムゾンの迷宮』(角川ホラー文庫)』『『青の炎』(角川文庫)』

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