ラテン語ゲヌスgenus(種属)に由来するフランス語で,種類や部類を意味し,生物学をはじめひろく用いられるが,語音をそのまま移しているときは多く芸術のジャンルをさすとみてよい。様式と同視されることもあるが,〈ジャンルの様式〉も正当な論題となる以上,芸術については両概念を区別しなければならない。ジャンルと様式はいずれも芸術作品の理解を深めるに有効とされる類型概念であり,様式が一作品にみられる個性的相貌の類型的性格を語るに対して,ジャンルは客観的に類型的統一をつくる作品群を語る概念である。芸術は個別芸術の諸形式(建築,文芸など)をとって現れるが,ジャンルの概念はこれら各形式に属する下位の作品群に用いられるのがふつうである。例えば文芸では叙事詩,抒情詩,戯曲がその三大ジャンルと呼ばれ,さらに例えば抒情詩ではソネット,エレジーなどそれぞれの下位ジャンルが立てられてきた。共通の特徴のもとに統一的把握が成り,まとめられた作品群の本質がいよいよ鮮明となってその理解を深めさせるのであれば,ジャンルはどこまでも細分化できる。このようなジャンル確立の原理や歴史的発展法則の究明は芸術研究の主要課題の一つであり,ブリュンティエールは文学史におけるジャンルの展開を生物の進化と類比的に論じて名高い。なお絵画では,日常生活や習俗を描く風俗画をジャンルと呼ぶこともある。
→様式
執筆者:細井 雄介
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…英語でgenre painting,フランス語でpeinture de genre,ドイツ語でGenremalerei,Sittenbildという。近代の美術批評で一般に定義する風俗画とは,いかなる社会階層,職業であれ,また人間の年齢にも関係なく,彼らの現実の日常生活(家庭生活,労働やレクリエーション)を主題とする絵画,しかも特定個人ではなく無名の人々の生活を表した絵画である。…
…とくに17世紀にアカデミーの制度が確立してからは,絵画の基礎として重視された。
[絵画のジャンル]
絵画は描き出される主題の内容によって,さまざまのジャンルに分けられるが,風景画,静物画,風俗画などのジャンルが独立のものとして確立するのは,西欧ではおよそ17世紀のオランダにおいてである。肖像画はそれよりもう少し早く,中世末期から王侯の肖像や祭壇画の寄進者像として登場している。…
…だが数々の理由から当然とはいえ,決定的な分類が立って芸術理解を指導するわけではない。具体的な個々の作品理解においてはむしろ様式とジャンルの両概念がたいせつである。作品には,つくる主体のがわからみれば,作家の個人的特質から背後の時代とか風土の特性など,さまざまな主観的条件が刻みこまれる。…
…後者も広義の風俗画に入るが,今後イコノグラフィーの研究が進み,これまで風俗画と分類された絵画も,寓意画,象徴画,世俗化された宗教画,また同時代的表現をもつ神話画として解釈されることもあろう。
【西洋】
[〈ジャンル〉としての風俗画]
神話画,宗教画,歴史画,静物画,肖像画などとともに,風俗画が絵画の一ジャンルとして分類されるようになったのは19世紀以降である。フランス語のジャンルgenreは本来〈種類〉〈類概念〉〈属〉を意味する。…
※「ジャンル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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