日本大百科全書(ニッポニカ) 「賃金統制令」の意味・わかりやすい解説
賃金統制令
ちんぎんとうせいれい
国家総動員法第6条に基づく勅令。軍需インフレのもとで、物価統制と関連して、熟練工争奪に伴う賃金高騰の抑制と労務需給の調節を行うため、1939年(昭和14)3月31日、従業者雇入制限令とともに公布された。軍需に関連する鉱工業の50人以上使用工場に、賃金規則の作成とその届出を義務づけ、未経験工採用の際の初給賃金を公定し、その諮問機関として中央および道府県に賃金委員会を設けた。しかし適用外産業との初給賃金格差が拡大したので、40年7月指定工場を全工業に拡大し、ついで9月女子の初給賃金も公定した。これとは別に39年10月、賃金臨時措置令で9月18日現在の賃金を1年間凍結した。
その期限切れに伴って、1940年10月賃金臨時措置令を統合し、全面改定された(第二次賃金統制令)。これは販売事業を含む全産業の10人以上使用事業所に適用され、〔1〕最低賃金の公定、〔2〕移動防止のための経験工最高初給賃金の公定、〔3〕賃金総額の制限、を行った。重要産業の熟練工不足と生産能率低下のため、42年2月造船など重要事業場労務管理令の適用を受ける事業所が適用除外となり、翌年6月改正により、賃金総額制限方式は賃金規則および昇給内規の認可による新統制方式に移行した。敗戦後、国家総動員法廃止により46年(昭和21)9月30日失効した。賃金統制令は戦時下の労働者の賃金を抑制したのみでなく、政府による賃金規則の強制を通じて年功序列賃金制度の確立を促進した。
[山田武生]
『労働省編『労働行政史1』(1961・労働法令協会)』