賠償責任保険(読み)バイショウセキニンホケン

デジタル大辞泉 「賠償責任保険」の意味・読み・例文・類語

ばいしょうせきにん‐ほけん〔バイシヤウセキニン‐〕【賠償責任保険】

偶然の事故により、他人を死傷させたり他人の物に損害を与えたりして、法律上の賠償責任を負担することになった場合、それにより被る損害を塡補する目的の保険。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「賠償責任保険」の意味・わかりやすい解説

賠償責任保険
ばいしょうせきにんほけん

被保険者が法律の規定または契約に基づいて、第三者に対して一定の財産的給付をなすべき法的責任を負うことによって被る損害を填補(てんぽ)することを目的とする損害保険産業や交通などの飛躍的な発展に伴って、個人または企業が他人に対して加害行為を行う機会が増大した。その結果、個人または企業に過失があるとき、場合によっては過失がないときにも、他人に加えた損害について賠償責任を負わされる。賠償責任の履行として被害者に一定の財産的給付を行うと、被保険者にはその財産の減少という損害が発生する。被保険者のこうした損害を填補する保険が賠償責任保険である。

[坂口光男]

特徴

賠償責任保険においては、一般の保険と異なり、保険者(保険事業者)と被保険者のほかに被害を被る第三者が存在する。賠償責任保険は、賠償責任を負担する加害者と、その相手方である被害者の両者を保護する機能を有する。すなわち、加害者は賠償責任保険に加入することにより、賠償責任を負担することで被る経済的損害から自らを防衛することができる。他方、加害者が賠償責任保険に加入しているならば、それによって加害者の支払い資力が確保され、その結果として被害者が加害者から賠償金を受けられることが確実となる。このように、賠償責任保険は加害者と被害者の両者を保護する機能を有するが、自動車損害賠償責任保険のような社会政策的な性格が強い保険においては、被害者保護を重視するという考えが採用されている。

[坂口光男]

種類

賠償責任保険の起源は、19世紀に欧米で生まれた労働者災害補償保険労災保険)であるといわれている。わが国では1953年(昭和28)に賠償責任保険が独立の保険種目として事業免許を取得したが、その後の経済の発展による損害賠償請求の増加に伴い、現在では多くの賠償責任保険が登場している。

(1)企業向けの賠償責任保険 施設所有管理者賠償責任保険、昇降機賠償責任保険、油濁賠償責任保険請負業者賠償責任保険、生産物賠償責任保険、旅館賠償責任保険、店舗賠償責任保険、LPガス業者賠償責任保険、警備業者賠償責任保険、保管者賠償責任保険、自動車管理者賠償責任保険、企業包括賠償責任保険、会社役員賠償責任保険、環境汚染賠償責任保険など。

(2)職業人向けの賠償責任保険 医師・薬剤師理学療法士弁護士公認会計士・税理士・旅行業者・情報サービス業者・電気通信事業者賠償責任保険などがある。

(3)個人向けの賠償責任保険 個人・ゴルファー・テニス・スキー・スケート賠償責任保険などがある。

 賠償責任保険は、加害者が被害者に対して法的責任を負担したときに初めてその機能を発揮するので、保険が機能する前提として、加害者の法的責任が確定することを要する。しかし、加害者の賠償責任の確定のためには、多くの費用と時間を必要とする場合が少なくない。加害者の賠償責任の有無とは無関係には賠償責任保険の給付が行われない点に、賠償責任保険の欠陥あるいは限界がある。

[坂口光男]

『東京海上火災保険株式会社著『損害保険実務講座7 新種保険(上)』(1989・有斐閣)』

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改訂新版 世界大百科事典 「賠償責任保険」の意味・わかりやすい解説

賠償責任保険 (ばいしょうせきにんほけん)
liability insurance

被保険者が,偶然な事故により他人の身体または財産に損害を与え,法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害(訴訟費用を含む)を塡補(てんぽ)する保険である。責任保険ともいう。自動車保険の対人・対物賠償責任保険や自動車損害賠償責任保険なども広い意味ではこの保険の一種であるが,これらは別の保険として発達しており,通常,賠償責任保険という場合には含まれない。この保険の起源は,1890年ころイギリスで創設された馬車の賠償責任保険とされている。日本においては特殊な危険を対象としたものを除いて,1957年に東京海上火災保険が初めて発売した。

 契約者のニーズに応じて,(1)個人が私生活のうえで起こした事故によって負担する賠償責任を対象とした家庭(個人)賠償責任保険,(2)施設の管理・所有者が負担する賠償責任を対象とする施設賠償責任保険,(3)商品や仕事の目的物を他人に引き渡した後にその物に起因して発生した損害に対し負担する賠償責任を対象とした生産物賠償責任保険,(4)弁護士,医師,司法書士等専門的職業に従事する者がその職務遂行に起因して他人に財産的損害を与えたことによって負担する賠償責任を対象とした職業賠償責任保険など,多くの種類がある。社会の発展,権利義務意識の向上,賠償金額の高騰等を踏まえて需要の増加が見込まれるとともに,新しい種類の賠償責任保険が各種開発されている。
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百科事典マイペディア 「賠償責任保険」の意味・わかりやすい解説

賠償責任保険【ばいしょうせきにんほけん】

被保険者が偶発事故によって第三者に対して財産的給付を負う法的責任を負担したとき,それによる損害を填補(てんぽ)する保険。損害賠償額のほかに訴訟費用も含む。自動車・航空・船舶保険における賠償担保や自動車損害賠償責任保険等もこの一種であるが,狭義にはこれら以外の独立の保険をさす。19世紀末ごろに英国で創設された馬車の賠償責任保険が起源であるとされている。
→関連項目新種保険

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保険基礎用語集 「賠償責任保険」の解説

賠償責任保険

事故により他人に身体の障害または財物の損壊を与え、これに基づき法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を担保する保険を指します。

出典 みんなの生命保険アドバイザー保険基礎用語集について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「賠償責任保険」の意味・わかりやすい解説

賠償責任保険
ばいしょうせきにんほけん

責任保険」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の賠償責任保険の言及

【航空保険】より

… (1)航空機保険(機体保険) 墜落・衝突・接触・転覆・沈没・火災・爆発・盗難その他偶然な事故による被保険航空機自体の損害を補(てんぽ)する。(2)第三者賠償責任保険 航空機の運航,管理に起因して乗客以外の第三者の生命・身体を害したり財物を損壊したことによって被保険者が法律上の賠償責任を負うことによる損害を補する。(3)乗客賠償責任保険 航空機の運航,管理に起因して,航空機に搭乗中(乗降中を含む)の乗客の生命・身体を害したり乗客所有の財物を損壊したことにより,被保険者が法律上の賠償責任を負うことによる損害を補する。…

※「賠償責任保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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