生命保険の新商品を指すこともあるが,通常は損害保険の種類のひとつをいう。社会の変化により種々のリスクの担保について新たなニーズが生じ,それまでの保険ではこれを担保できないとき,新しい保険が出現する。といっても,伝統的な保険種類のものの特約として作られたり,別個の約款によるものでも伝統的な保険種類に属する新保険として主務大臣の認可を得るものも多い(例えば,団地保険は火災保険分野の新保険とされた)。しかしまったく別個の種類の商品として扱われるものもあり,これが一般に新種保険と呼ばれる。すなわち,伝統的な保険種類に属さない新しい保険種類を総称して,実務上用いられているものである。なお,これに属する保険種目でもしだいに主要な商品に成長していった結果,単独の保険種類のひとつとして取り扱われるに至るものもある。かつては新種保険といわれた自動車保険がそうであるが,傷害保険も単独の保険種類として扱われている。
新種保険は責任保険,費用・利益保険,人保険,物保険等の分野(〈損害保険〉の項目参照)にまたがり,多種多様な保険を含む。そして1998年の保険制度改革によっていっそうの多様化が進行すると予想される。
現在,日本の損害保険会社で営業されている新種保険のうち基本的なものを保険料の大きさ順に見ると次のとおりである。
(1)賠償責任保険 これについては〈賠償責任保険〉の項を参照されたい。
(2)動産総合保険 保険の目的について,その場所を問わず保険証券記載の担保地域内で生じた偶然な事故による損害に対して保険金を支払う。担保するリスクを限定列挙するのでなく偶然な事故であればよいとし,除外するリスクを列挙する〈オールリスク方式〉を採用している点が特徴である。ただし保険の目的の瑕疵(かし)や自然の消耗のほか,故意・重大な過失による損害,戦争,暴動,公権力の行使,核燃料物質の放射能等による損害等には,保険金が支払われない。原則としてあらゆる動産が対象となるが,既存の他保険との調整上,原則として対象外となるものがある。例えば家財一式(火災保険の対象),自動車(自動車保険),加工または製造中の動産(貨物保険),船舶(船舶保険),航空機(航空保険)等である。なお,この保険の一種としてヨット・モーターボート総合保険,コンピューター総合保険等がある。
(3)労働災害総合保険 政府の労働者災害補償保険(政府労災保険)または船員保険の上乗せ保険である。日本では,法律により使用者の労働災害補償責任を定め(労働基準法75条),またこの補償責任は,労働者災害補償保険法で定める労災保険(政府労災保険)からの保険給付により代置される旨規定している(労基法84条1項。船員法にも同趣旨の規定がある)。しかしながら,労基法に定める補償責任もしくは政府労災保険による給付は,いわば法律で定めた最低保障的なものであり,社会情勢の実態に照らすと必ずしも十分ではない。また労基法では,同法に定める災害補償責任に基づく補償を行った場合には,使用者の民法上の損害賠償責任はその限度において免れる旨規定しているが(84条2項),その限度を超えた部分については,使用者は別に備えておかなければならない。以上のニーズから,労働災害総合保険は使用者を被保険者とする次の2種類の保険から構成されている。
(a)法定外補償保険 被用者の業務上災害(政府労災保険等による給付が行われる場合に限る)について,政府労災の上乗せとして,あらかじめ労使間で協定した法定外補償規定等に基づいて所定の保険金を支払う。
(b)使用者賠償責任保険 被用者の業務上災害につき,使用者が法律上の損害賠償責任を負担することにより支払うべき損害賠償金から,政府労災保険による給付,法定外補償保険の支払保険金等を控除した額や諸費用の保険金を支払う。
(4)介護費用保険 被保険者が〈寝たきり〉または〈認知症〉になり,介護が必要な状態が180日継続した場合に医療費用,介護施設費用,介護諸費用,臨時費用の各保険金が支払われる。保険期間は終身である。実施準備中である公的介護費用保険(介護保険)の上乗せ保険と位置づけられることになる。
(5)機械保険 稼働可能な状態にある機械設備装置を対象に,落雷,衝突等の外来危険のほか,誤操作による事故,設計・材質・製作の欠陥による事故,電気的・機械的事故等による損害を塡補(てんぽ)するオールリスク方式の保険。主な免責事由としては,自然災害のほか,火災,盗難,消耗,劣化等がある。特徴は,保険金額を,新調達価額(保険の目的と同種同能力の機械設備装置を新たに取得するに足る価額)で定める点である。類似の保険にボイラー・ターボセット保険がある。
(6)建設工事保険等 各種建設工事を対象に,工事現場への建設資材の搬入時から工事完成後,目的物を引き渡すまでの間に,火災,暴風雨,盗難等の外来危険のほか,施工技術の拙劣,作業員の過失等の施工危険および材料の欠陥等により工事物件に生じた損害を塡補するオールリスク方式の保険(事故の発生に至らない施工の欠陥,材料の欠陥自体の損害は塡補しない)。通常,工事請負人が保険契約者となるが,発注者が契約することもある。特約により,工事に伴う第三者賠償責任のリスクを担保することもできる。なお,道路,上下水道,トンネル等の土木工事を対象にする土木工事保険,機械装置,プラント等の鋼構造物の据付・組立工事を対象にする組立保険もある。
(7)盗難保険 特定収容場所の財物につき窃盗,強盗による損害を塡補する保険。ほかにも盗難危険を担保する保険はあるが,本保険は盗難危険のみを担保するものである。この保険の一種にクレジット・カード盗難保険があるが,この保険ではクレジット・カードを不正使用されたことによる損害が担保される。
(8)信用保険・保証保険 信用,保証の両保険を一言でいえば,信用の供与に伴い,受信者の債務不履行,不法行為により与信者が損害を被る危険(信用危険)を担保する保険である。両保険とも被保険者は与信者(債権者)であるが,契約者は,前者の場合が被保険者自身であるのに対し,後者の場合は受信者(債務者)である点が異なる。つまり信用保険は与信者がみずから保険料を負担して信用危険に備えるものであり,保証保険は受信者が他人(与信者)のためにする保険契約で,その経済的機能は物的担保や人的保証と同じといえる。信用保険のおもなものとして,身元信用保険,割賦販売代金保険,住宅資金貸付保険,個人ローン信用保険等があり,保証保険のおもなものとしては,入札保証保険,履行保証保険,住宅ローン保証保険等がある。なお,保証保険と類似のものとして保険会社が直接保証する〈保証証券〉(ボンド)業務も行われている。
(9)航空保険 これについては〈航空保険〉の項を参照されたい。
(10)原子力保険 原子力施設で生じた原子力事故等を対象とした保険である。原子炉施設等に発生した事故による対人賠償,対物賠償(原子力損害賠償責任保険),原子炉施設およびその収容物などの損害(原子力財産保険)等に対して保険金が支払われる。なお,〈原子力災害補償〉の項目を参照されたい。
(11)その他 以上のほか,各種の費用・利益保険がある。これには興行中止保険(開催予定のスポーツ大会や国際会議などの偶然な事由による中止や延期の場合に支出する費用や得べかりし利益)やネットワーク中断保険(情報通信ネットワークの偶然の事故による停止等による費用・利益)等が含まれる。また物保険分野の新種保険として,ガラス保険,動物保険,風水害保険がある。さらに責任保険の一種といえる船客傷害賠償責任保険もある。
執筆者:高木 秀卓+中西 宏紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
損害保険のうち、火災保険、海上保険、運送保険以外の各種の保険の総称。新種保険という用語は、体系的分類によるものではなく、保険会社が事務上用いている慣用語であり、近年は自動車保険および自動車損害賠償責任保険を別扱いにすることもある。生命保険の分野で使用される場合もあるが、これは新しい型の生命保険という意味である。新種保険は、ほぼイギリスのaccident insurance、アメリカのcasualty insuranceに相当するものであり、起源は18世紀のヨーロッパにおける家畜保険や盗難保険に求められるが、その充実と発展は英米において著しい。そのため、日本の新種保険も当初は主として英米から導入され、それを日本的に改良したものといって差し支えない。
日本に初めて導入された新種保険は、1904年(明治37)の信用保険である。その後大正末期までに機関汽缶保険(1908。現ボイラー・ターボセット保険)、傷害保険(1911)、自動車保険(1914)、盗難保険(1916)、ガラス保険(1926)などの営業が開始され、さらに昭和になると航空保険(1936)、風水害保険(1938)などが発売されているが、第二次世界大戦前はいずれも火災保険や海上保険の陰に隠れ、その契約高も微々たるものであった。
新種保険が大きな発展を遂げるのは第二次世界大戦後になってからである。復興期にも動物保険(1947)、労働者災害補償責任保険(1949)、保証保険(1951)などの発売をみたが、1950年代なかば以降の高度経済成長期になると、モータリゼーションの波にのって急伸した自動車保険をはじめとして、各保険ともそれぞれ著しい伸びを示したほか、経済活動や社会生活のうえで従来経験しなかったような新しい危険が生じるようになったため、これに対応して、自動車損害賠償責任保険(1955)、機械保険(1956)、賠償責任保険(1957)、船客傷害賠償責任保険(1958)、建設工事保険(1960)、原子力保険(1960)、動産総合保険(1961)などが次々に開発された。その後も各保険種目の内容の充実が図られたほか、1983年(昭和58)には費用・利益保険が開発されている。これは、開催を予定していた興行などが偶然な事故によって中止された場合に、すでに支出していた費用や喪失利益などの損害を填補(てんぽ)する保険である。なお、以上の新種保険のうち、その正味収入保険料からみて重要なのは、「自動車保険」「自動車損害賠償責任保険」「傷害保険」「賠償責任保険」「労働者災害補償責任保険」「動産総合保険」「保証保険」「信用保険」などである(これらの保険については、それぞれの項を参照されたい)。
[金子卓治]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…世界最初の近代的生命保険会社といわれる。
[新しい展開]
18世紀イギリスで始まった産業革命以後,社会的・経済的環境の大きな変化は新たなリスクをも生み出し,これらに対処するための各種の新種保険が発達した。鉄道の傷害保険,責任保険,自動車保険,信用保証保険等々がそれである。…
※「新種保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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