日本大百科全書(ニッポニカ) 「購買婚」の意味・わかりやすい解説
購買婚
こうばいこん
purchase marriage
嫁をめとるに際し、男性側から女性側に「婚資」bridewealthとして金品を譲渡しなければならない場合、その結婚を購買婚と称することが一般にはまだあるし、かつては人類学においてもそのような言い方がされることもあった。しかし、現在の文化人類学においては一般に、購買婚の名称は不適当とされている。アフリカの牧畜民を例にとると、花婿またはその家族は結婚時に一定数の牛を花嫁の親族に贈る。これはかなりの数に上り、花婿の親族たちは頭数をそろえるのに協力しなければならないほどである。女の側は獲得した牛を自分たちの息子の結婚時に役だてることができるが、ひとたび離婚となれば、もらった同じ牛を返さねばならない。この婚資の譲渡は結婚の継続の保証であり、また花嫁の労働や性的関係などを支配する権利の移動の代償と考えられる。婚資交渉での駆け引きは商品に対する価格交渉を連想させる場合もあるが、婚資は購買において支払われる代価とは性質を異にしている。商取引では代価の支払いによってその交換行為が完結し、商品をさらに転売することも可能であるが、婚姻における婚資と花嫁と当該の両集団との関係においては、婚資の移動により交渉が完結するのではなく、また転売のような行為は不可能である。したがって、この用語は文化人類学では現在ほとんど使われない。
[横山廣子]