結納
ゆいのう
婚姻に先だって、通例、男家から女家に(婿養子の場合はその逆)贈られる金品、およびその儀礼。受け取った側で約半分の金品を返すことがあり、結納返しという。近来では、一般に結納をもって婚約の成立としており、またその際の金品を将来婚姻生活の資とすべく、多額かつ豪華にしようとする傾向がみられる。しかし各地で酒入れ、樽(たる)入れ、茶のものといった名称が聞かれるように、結納に金銭を伴わず、品物も飲食の料とするのが古習である。つまり、仲人(なこうど)が酒と肴(さかな)を持参して女家を訪れ、縁談の承諾を得れば、その場で酒を酌み交わして婚約を認めあうという風であった。そのとき婿自身も嫁側に行くことがあり、結納婿入り、婿一見(いちげん)などとよばれるように初婿入りの意味をもつものであった。このような共同飲食を通じて、両家は新たに共同労働たるユイの関係を結ぶ姻戚(いんせき)になるわけで、結納ということばもそのユイに基づくとの説がある。一方、結納をユイレ、イイレというのは言入れの訛(なま)りで、縁談の申し入れをさしたとする説もある。嫁入り婚が普及・発達するにつれ、酒入れやユイレは第一次の婚姻予約にすぎぬとされ、その後改めて金品を届け、婚約の確定を図るようになり、元来一つのものが二つの儀礼に分化した。しかも、後者の結納が重々しく考えられ、その作法も小笠原(おがさわら)流などを範として整えられていった。近来、結納を期して正式の仲人をたてたり、祝言(しゅうげん)の日取りを決めたりする風も広く行われている。
[竹田 旦]
結納は、婚約の成立を確認するために、当事者の一方から他方に、または双方がする贈与である。法律上は、婚姻が成立しなかった場合には、結納を受領した者は返還すべき義務を負う。婚約の破棄があった場合はもちろん、合意で婚約を解消した場合でも、返還義務がある。事実上のまたは法律上の婚姻が成立すれば、その後に離婚となっても、結納は目的を達したので、返還請求の問題は生じない。もっとも、事実上の婚姻が成立しても、同棲(どうせい)期間が短く、実質的にみて夫婦の共同生活が存在しなかったとみられうる場合には返還義務がある。また、自らの責任ある事由で婚約を破棄した結納の授与者からの返還請求を認めない裁判例が少なくない。
[石川 稔・野澤正充]
『太田武男著『結納の研究』(1985・一粒社)』
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結納
ゆいのう
婚約の印に婿方から嫁方に礼物を贈ること,またはその礼物。礼物は酒食の料で,衣装,金員を添える例が多く,地方によっては茶の包みを添える。また,結納を受けた嫁方からは,その約半額の返しをする慣行も広くみられる。明治以前には結納が入ると,それを受けた女性は初鉄漿 (はつがね。お歯黒の染料) をつけた地方もあり,婚約中の女性が万一死亡した場合は,婿方の墓地に葬ることもあった。すなわち,結納が婚姻の成立と同義的に考えられたわけであるが,今日ではそのような考え方は存在せず,結納の金品も,婚姻が不成立に終った場合は,その責任の有無とは関係なく,贈与者から贈受者に対し,その返還を請求できるとされている。
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結納【ゆいのう】
婚約成立のしるしに金銭や品物を贈ること。またはその金品。樽入(たるいれ),納采(のうさい)とも。品物は婿が嫁の家に持参する酒肴(しゅこう)から,次第に嫁の衣装や装身具が主となり,近年では金銭に目録を添える形が多い。嫁を買った代償のなごりとする説もあるが,日本の購買婚慣行は非常にまれである。
→関連項目初婿入り
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けつ‐のう ‥ナフ【結納】
〘名〙
① 気心を通じあって力をあわせること。
※随筆・山中人饒舌(1813)下「凡有二才芸可レ観者一。必傾レ心結二納其人一」 〔後漢書‐馮異伝〕
② 婚約のあかしとして男女双方から品物をとりかわすこと。また、その品物。ゆいのう。
※談義本・医者談義(1759)三「か程事極り結納(ケツナウ)まで相済変改は以て離別同事」
ゆい‐のう ゆひナフ【結納】
〘名〙 (「いいいれ(言入)」の変化した「ゆいいれ」にあてた「結納」の
湯桶読み) 婚約が成立したしるしに、婿嫁両家が互いに金銭・品物を取りかわすこと。また、その金品。たのみ。
納幣。納采
(のうさい)。ゆいいれ。ゆいれ。
※浄瑠璃・歌枕棣棠花合戦(1746)一「今川殿結納(ユヒノフ)の印として」
ゆいれ ゆひれ【結納】
※雑俳・江戸すずめ(1704)「井戸隣歌のゆいれは親不知」
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デジタル大辞泉
「結納」の意味・読み・例文・類語
ゆい‐のう〔ゆひナフ〕【結納】
婚約成立のしるしに、両当事者かその親が金銭または品物を取り交わすこと。また、その儀式や金品。
[補説]「言い入れ」を「ゆいいれ」となまり、それに当てた「結納」を湯桶読みしたもの。
ゆい‐いれ〔ゆひ‐〕【結▽納】
《「言い入れ」を「ゆいいれ」となまり、「結納」を当てたもの》「ゆいのう」に同じ。
「婚礼の―に」〈艶道通鑑〉
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ゆいのう【結納】
婚約の意味をもって金品などを男方から女方へ贈る儀礼,あるいはその金品のことをいう。語義からは,ユイノモノすなわち家と家とが姻戚関係を新たにむすぶための共同飲食,またはその酒肴のこととされる。しかし,近世に言入,結入と記される例が多いことから,申込みを意味する〈言入レ〉がなまったものともいわれている。結納の内容は,双方の家の社会的位置の確認と関連し,女方からはその半額くらいを返すことが多い。儀礼への参加は女方の両親,親戚,近所の者と仲人などで,婚姻の社会的承認,女方との関係締結などの意義がみとめられる。
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普及版 字通
「結納」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典内の結納の言及
【婚姻】より
…嫁入婚は現在もっとも標準的な婚姻形態である。 婚約の確定にあたっては結納をとりかわすが,古くは夫方,妻方双方が新たな姻戚関係をむすぶため共同飲食する酒肴のとりかわしだったと考えられるが,現在は金銭が主である。嫁入道具は嫁入婚にともなって重視されるようになったが,婿入婚ではきわめて少なく婚姻締結の要件ではない。…
【目録】より
…礼法では進物の目録を意味することが多い。進物目録は紙を半折した折紙を用い,結納目録の料紙は婿の官禄により大高檀紙など,平士は引合紙を用いた。書式も書札礼(しよさつれい)により決りがあり,〈目録〉の字は書かないのが法であるが,明治以後の結納目録には書いてあるものが多い。…
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