改訂新版 世界大百科事典 「超過負担」の意味・わかりやすい解説
超過負担 (ちょうかふたん)
財政において〈超過負担〉という言葉は2通りの意味で使用されている。一つは課税に伴う〈超過負担〉の問題であり,いま一つは国と地方の財政負担方式に付随して生ずる〈超過負担〉の問題である。
課税に伴う超過負担
課税に伴う超過負担excess burdenの問題とは,民間の経済主体の行動が課税の攪乱(かくらん)効果により,消費,勤労あるいは生産意欲が阻害されて,資源配分上の損失が発生するという事実を指している。すなわち,市場機構はその機能が理想的に作動する場合,シグナルとしての価格の調整により最適な資源配分が実現される。ところが,消費や勤労に課税される場合,課税前の価格や賃金をもはや維持しえず,異なる価格や賃金が市場で成立することになる。この状態は,消費者と生産者あるいは労働者と企業の価格あるいは賃金に乖離(かいり)が生ずることになるから,最適な資源配分状態が攪乱されて経済全体として非効率さを生み出している。この非効率さに伴う社会全体の損失を〈課税による超過負担〉という。経済理論の新たな潮流である供給重視経済学(サプライ・サイド経済学)は,課税によるこのような経済主体に与えるディスインセンティブ効果を強調し,経済への悪影響を組織的に明らかにしようと試みている。たとえば,インフレ期における法人税制がいかに設備投資を低下せしめるか,あるいは累進所得税がどのように労働供給を減少させるか,等である。民間経済の活力と税制の関係は,このように資源配分上の観点から,今後はますます関心を呼ぶものと考えられる。
執筆者:本間 正明
地方公共団体の超過負担
国と地方の財政負担方式において生ずる超過負担とは,国から地方公共団体に交付される国庫支出金の額が法律・政令等で定めた国の負担割合を下回り,そのため地方公共団体が本来の自己負担割合を超えて費用を負担しなければならないことをいう。この現象は,多年にわたり地方財政を圧迫する重大問題とみなされてきたが,とくに1973年大阪府摂津市が保育所の建設費をめぐり国に対して超過負担分の支払を求める訴訟(摂津訴訟)を起こすに及んで,大きな注目を集めることとなった。このような超過負担が発生する基本的原因は,国庫支出金の交付対象となる経費について,国の基準に基づく算定額が地方公共団体の実際の支出額を下回っていることにある。さらに,この種の差異を生ずる要因として次の3点が挙げられる。(1)国の算定に用いられる単価が実勢価格よりも低いこと(単価差),(2)補助対象となる数量が実際に必要とされる数量に満たないこと(数量差),(3)一部の経費が補助対象から外されていること(対象差)。こうした状況にかんがみ,国は実態調査に基づいて単価差を中心に超過負担の解消を図ってきたが,まだ不十分な点が少なくない。
執筆者:大川 政三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報