国が、地方公共団体の行う特定の行政に対して、それに要する経費の全部または一部を負担するもの。国庫負担金、国庫補助金および国庫委託金に分類される(補助金と総称されることが多い)。同じように国から交付される地方交付税とは、使途が特定されている点で異なる。国庫負担金は、地方公共団体が実施する行政に対して、国が義務として、その経費の全部または一部を負担するものである。その交付の対象となる経費の種目、算定基準および国と地方公共団体との負担割合は、法律または政令で定めるものとされている。国庫補助金は、国が地方公共団体に対し、特定の行政の実施を奨励するとき、または地方公共団体の財政上特別の必要があると認めるとき交付するものである。また、国庫委託金は、本来国が自ら実施すべき行政を、利便性、効率性を考えて、地方公共団体に委託し、その経費の全部を国が負担するものである。
1998年度(平成10)地方財政計画ベースでそれぞれの予算額および構成比をみると、国庫負担金8兆7257億円(67.2%)、国庫補助金4兆1174億円(31.7%)、国庫委託金1392億円(1.1%)となっている。また、使途別に国庫支出金の比率をみると(99年度決算額)、普通建設事業費(36.8%)がもっとも大きく、ついで義務教育費(18.1%)、生活保護費(8.4%)、児童保護費(3.7%)、老人保護費(2.8%)となっている。
[大川 武]
国庫支出金制度の萌芽(ほうが)は明治時代にまでさかのぼることができる。1894~95年(明治27~28)の日清戦争後、勧業、教育、土木、保健衛生、警察などの事業の拡充が必要となり、国から地方への委任事務が急増し、その実施を図るために補助金が交付された。しかし、補助金の額が少なかったため、委任事務の増大は地方財政を強く圧迫した。このような状況のなかから、国と地方の経費の負担のあり方を問う経費負担区分論が生まれた。これが実を結んだのが、1918年(大正7)の市町村義務教育職員給与費国庫負担金制度の創設である。義務教育について、まず経費の負担区分の考え方が適用されたわけであるが、この考え方が一般的に確立されるのは、48年(昭和23)の地方財政法においてである。
この地方財政法は、国費・地方費の負担区分のあり方として、(1)主として地方の利害に関係ある事務は全額地方が負担する、(2)国と地方双方の利害に関係ある事務は両方で経費を負担する、(3)主として国の利害に関係ある事務は全額国が負担する、という原則を示した((2)の事業に対しては、国が地方に国庫負担金を与える形で経費の分担がなされる)。負担金の根拠を利益説に求めるものである。
ところが、1949年に来日したシャウプ税制使節団は、この国費補助負担金制度を全面的に批判した。その要点は、次のようなものであった。まず全額補助負担金は、(1)国と地方の責任を混乱させ、(2)地方公共団体を不必要に中央政府の強い統制下におき、(3)補助負担金の決定に際して、国と地方との間につまらぬ摩擦を生ぜしめる。
また一部補助負担金は、前記の理由に加えて、(1)富裕団体と貧困団体への補助負担金がまったく同一の比率であって、財政力を異にする各団体の負担を平均化する方法がない、(2)所与の事務の何%が国の利害に関するもので、何%が地方の利害に関するものであるかを決定する客観的な方法がなく、補助負担率の決定が独断的になる、(3)住民の側からみて行政責任の所在が明白でない。
このように批判したうえで、奨励的補助金と公共事業費補助負担金以外の補助負担金を全廃し、その事務を遂行するのにもっとも適した行政機関に全責任を割り当てるように勧告した。
これを受けて、地方財政法の国費・地方費の負担区分にかかわる規定は、1950年度、51年度に限って適用を停止されることになった。しかし、この勧告に沿った補助負担金の整理については、中央省庁の抵抗もあって徹底した改革が進まず、いったん廃止されたものについても復活の兆しがみえはじめた。このような状況を踏まえて、52年の地方財政法改正で、地方公共団体またはその機関が行う事務に要する経費は、全額当該地方公共団体が負担するという原則を立てるとともに、例外として、(1)法令によって実施を義務づけられた事務で、国と地方公共団体相互の利害に関係のある事務、(2)国民経済に適合するように総合的に樹立された計画に従って実施される建設事業、(3)災害救助事業や災害復旧事業については、「この限りではない」とした。また、もっぱら国の利害に関係ある事務については、地方公共団体は経費を負担する義務を負わないとした。例外規定で経費負担区分の考え方を残し、国庫支出金の現状を追認するものであった。基本的には、この規定が現在まで引き継がれている。
[大川 武]
地方歳入に占める国庫支出金の比重は、1960年代、70年代は20%台を占めていたが、80年代に入るころから減少しはじめ、85年度は18.3%、90年度は13.3%、以後14%台で推移した(98、99年度は15%、16%と若干上昇)。これは、80年度に始まる国の財政再建、歳出抑制の取組みのなかで国庫支出金の削減が図られたことによる影響が大きい。
1985年度には、暫定措置として、2分の1を超える高率補助負担率の引下げが実施された。高率補助負担金には福祉関係費が多かった(たとえば、生活保護費、児童保護措置費は10分の8から10分の7へ)。また事業量確保のために、投資的経費についても補助負担率の一律引下げが行われた(たとえば、一般国道の改築は3分の2から10分の6へ)。翌86年度には、さらに3年間、補助負担率の暫定引下げを継続するとともに、一部強化された(たとえば、児童保護措置費等は10分の7から10分の5へ)。また、2分の1以下のものについても見直しが拡大された。87年度には、内需拡大のため公共事業の事業量拡大が要請され、投資的経費の補助負担率の第三次引下げが行われた(たとえば、一般国道の改築は10分の5.5から10分の5.25へ)。これらの措置に伴う地方負担の増加に対しては、地方交付税の増額や建設地方債の増発などの財源措置がとられたが、地方公共団体側からは反発が強かった。そのため、89年度に至って、経常経費について、国から地方へ恒久財源の移譲を行う(国のたばこ税の25%を地方交付税の対象税目に加える)ことで補助負担率の恒久化が図られた(たとえば、生活保護費については4分の3、社会福祉関連については2分の1で恒久化)。しかし、投資的経費については、事業量確保の要請から、引き続き暫定措置が継続され、93年度に至って補助負担率の体系的な見直しを行うことでようやく決着をみた(国直轄事業にあっては3分の2、補助事業にあっては2分の1を基本とし、大規模なものなどについては特例的な補助負担率が設定された)。
国費・地方費の負担区分のあり方は社会経済情勢の変化に応じて見直される必要があるが、この暫定引下げはもっぱら国の財政再建と歳出抑制の観点から実施されたものであり、国と地方の利害や責任の程度、その役割などについての基本的な検討に基づくものとはいえない。
[大川 武]
国庫支出金、いわゆる補助金は、国にとっては、その交付を通じて、地方公共団体の行財政運営を管理・統制し、一定水準の行政を確保し、地方公共団体に国の政策意図を浸透・徹底させるという機能を果たしている。しかし、このような補助金の機能は、地方公共団体の行財政運営に対して、以下のような種々の弊害をもたらすことが多い。まず、交付にあたって付される条件が画一的であり、地方の特殊性が無視され、その創意が生かされにくい。申請・交付の手続や事業検査が繁雑で、手間がかかる。地方公共団体側に、住民の必要よりも補助金が交付されるかどうかを重視し、補助金待ち、責任回避の姿勢を生み出しやすい。補助金が各省庁別に交付されることから、地方公共団体の各部局と各省庁との縦割りの結び付きが強まり、首長の一体的な行財政運営が阻害される。また、各省庁別の補助金交付は、その総合的、効率的な使用を妨げる。補助金の額は、地方公共団体が補助事業を行うのに必要で、かつ十分な金額を基礎として算定されなければならないとされていながら、現実には、この金額についての国の見積りが低いため、地方公共団体は本来負担すべき部分以上の負担(超過負担)を強いられる場合が少なくない。そのほか、補助金が議員や首長の選挙地盤の培養のために利用されていることも、よく指摘される。このように、補助金は多くの問題を抱えているので、これまでも、しばしばその整理、合理化が取り上げられたが、みるべき成果をあげていない。
[大川 武]
1997年7月に出された地方分権推進委員会第二次勧告は、地方公共団体の自主性、自立性を高める観点から、国庫補助負担金の整理合理化、存続する国庫補助負担金にかかわる運用・関与の改革、地方税財源の充実確保について改革案を提示した。まず、国庫補助負担金の整理合理化については、存在意義の薄れた事務事業およびこれに対する国庫補助負担金の廃止、同化・定着・定型化しているもの、人件費補助等の一般財源化、サンセット方式、スクラップ・アンド・ビルド原則の徹底、奨励的補助金等の国庫補助金と国庫負担金の区分の明確化という基本的な考え方を示したうえで、国庫補助金の原則廃止、国庫補助金削減計画の策定、国庫負担金の見直しと重点化、国庫補助負担金の廃止・削減後も当該事務事業の実施が必要な場合における必要な地方一般財源の確保を提言している。また、存続する国庫補助負担金にかかわる運用・関与の改革については、国の過度の関与によって地方公共団体の自主的・自律的な行政運営が損なわれることがないよう、(1)統合・メニュー化、(2)交付金化、(3)運用の弾力化(複合化)、(4)補助条件等の適正化・緩和、(5)補助対象資産の有効活用、転用、(6)補助金にかかわる事務執行の適正化(標準処理期間の設定等)、事前手続の簡素化、(7)交付決定の迅速化、弾力化を図ることを提言した。また、合計100件にのぼる個別の国庫補助負担金を、整理合理化や運用・関与の改革を行うべきものとして例示した。しかし、2001年現在、補助負担金等の整理合理化は限られた範囲にとどまり、地方税財源の充実確保も国・地方の財政危機のもとで進んでいない。地方分権の進展は、今後、これらの提言を含む財政面での改革がどのように取り上げられ、推進されるかにかかっている。
[大川 武]
『宮本憲一編『補助金の政治経済学』(1990・朝日新聞社)』▽『河野惟隆著『地方財政の研究』(1999・税務経理協会)』▽『広瀬道貞著『補助金と政権党』(朝日文庫)』
国が地方公共団体に対し,行政を行うに必要な経費の財源に充てるために支出する支出金のうち,使途が特定されているものをいう。国庫支出金はその性格から補助金,負担金,委託金の3種に分類できる。補助金は,国が特定の行政事務の執行を奨励助長するために地方公共団体に交付するものをいう。負担金は,国が国家の政策的見地から特定の行政事務に要する経費の全部または一部を,地方公共団体に交付するものをいう。委託金は,本来は国が行うべき事務であるが,地方公共団体またはその機関に行わせるほうが効率的であるということから,同事務をそれらに委託し,それに要する経費を国が交付するものをいう。また,国庫支出金は支出形態に基づいて次の四つに分類できる。(1)一律底上げ補塡(ほてん)方式(定率方式と定額方式がある),(2)全額補塡方式,(3)国家の政策的配慮に基づく傾斜的支出,(4)行政を一定基準に維持するための条件付補助金。
こうした各種のタイプの国庫支出金は,以下の理由から,地方分権制度をとる国においても採用されている。第1は,一国内に占める各地域の成長格差,所得格差の存在である。住民の格差是正要求が地方公共団体の限界能力を超える場合,中央政府が対応するようになり,国庫支出金が増大する。第2は,福祉政策や大規模公共事業のように国家的見地から,各地域に対し同時的かつ同質的に遂行しなければならない行政が拡大した点である。第3は,特定地域に対する重点的施策の遂行である。第4は,社会経済環境の変化に対して制度改革が遅れた場合,国庫支出金は弾力的な対応が可能である点である。第5は,こうした要因を背景に拡大した国庫支出金に対する,地方自治体の要請である。これらの要因が重なって,国庫支出金は国家財政においても地方財政においても,その比重を急速に高めてきたが,その反面,さまざまな問題を生じてきている。第1は,地方自治体の超過負担の問題である。超過負担は,国庫支出金の交付額が,地方公共団体の実際の支出金額を基礎にして算定されるのではなく,国が定めた基準をもとに算定されるために発生し,それは通常,単価差,数量差,対象差に区分される。第2の問題は,1件当りの金額が少なく,地方公共団体の行政を奨励するという目的が十分に達成しえない零細補助金が多く存在することである。補助金交付には,補助申請,交付決定,精算報告,会計検査など多大の労力を要するため,事務の合理化という点からも問題が多い。第3は,国庫支出金は中央政府の地方公共団体に対する指揮監督を伴うため,地方自治の観点から望ましくないという問題である。また,国庫支出金は地方公共団体の各部局と中央政府の各省庁との結びつきを強め,いわゆる〈縦割行政〉をもたらしがちとなる。
執筆者:富田 俊基
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(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)
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…これらの移転的支出をも含めた地方財政計画の1982年度決算額による地方公共団体全体の普通会計歳出額は,51.1兆円にのぼり,国の一般会計と10特別会計との純計歳出額50.5兆円を若干上回る規模である。国の歳出には,後述する地方交付税交付金,または国庫支出金のように地方への振替支出が含まれ,その資金の流れとは逆にまた,金額は少であるが,地方から国への支出も存在する。これらの国と地方間の資金移転を整理した結果の82年度純計歳出額でみれば,国が29.8兆円,地方が50.6兆円,構成比では,国の37.1%に対し,地方は62.9%の圧倒的優勢比率を示している。…
… このような基本原則の下に,この法律は,国と地方公共団体の行政責任(事務配分等)に対応した国費と地方費の負担区分に関する原則等を定め,また,地方公共団体(道府県と市町村)間の財政調整に関する規定を置いている。しかし,とくに国と地方公共団体との負担区分(財政調整)にかかわって,国の負担は義務的なものとそうでないものがあり,また義務的負担分について別途法律によって裁量的基準が設けられたり,また,これらの負担分は,いわゆる国庫支出金として一括して補助金等と呼ばれ,〈補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律〉(1955公布)に基づく交付決定という複雑な手続を必要とするところから,必ずしもこの法律の趣旨が生かされていない,という問題がしばしば指摘されている。地方財政【福家 俊朗】。…
※「国庫支出金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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