足立文太郎(読み)あだちぶんたろう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「足立文太郎」の意味・わかりやすい解説

足立文太郎
あだちぶんたろう
(1865―1945)

人類学者、解剖学者。静岡県伊豆に生まれ、帝国大学医科大学(現、東京大学医学部)を卒業。解剖学を専攻し、第三高等学校医学部(現、岡山大学医学部)教授となり、ドイツ留学を経て、1904年(明治37)より京都帝国大学医科大学教授となった。血管、筋肉、内臓、皮膚などの軟部組織に関する詳細な研究を行い、とくに日本人とヨーロッパ人の人種的差違を明らかにする画期的な業績をあげた。『日本人の動脈系』(1928)および『日本人の静脈系』(1933)と題する、ともにドイツ語の大著は、血管系の体内での走行分布に関して、その個人差、人種差をきわめて詳細に明らかにしたものである。今日、血管系の分岐・走行の起源および差違を論ずる際には、かならず「足立の何型」と称せられるほどに、その研究は高く評価されている。学士院恩賜賞およびドイツ赤十字名誉賞を受賞した。しかし研究途上では、学会出席の時間すら惜しむほど研究に没頭したため、世間に知られることが少なかった。このほか体臭に関する研究も著名で、腋臭(えきしゅう)(わきが)などのもとになるアポクリン腺(せん)(汗腺一種)の人種差、およびわきがと粘着性耳垢(じこう)(みみあか)との密接な遺伝的関係を明らかにした。

[澤野啓一 2018年11月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「足立文太郎」の意味・わかりやすい解説

足立文太郎 (あだちぶんたろう)
生没年:1865-1945(慶応1-昭和20)

解剖学者,人類学者。静岡県生れ。東大卒業後ドイツに留学,第三高等学校教授を経て,1904年京都大学医学部教授となり,解剖学を担当。軟部人類学,とくに日本人を対象とした解剖学研究の先駆者。筋の異常の統計学的研究のほか,諸民族の体臭と耳垢(じこう)についての遺伝学的・組織学的研究,さらにドイツ語で発表した《日本人の動脈系》(1928),《日本人の静脈系》(1933,40)などが知られる。25年定年退職後,大阪高等医専(現,大阪医科大学)の初代校長になった。学士院恩賜賞受賞(1930),学士院会員。女婿に作家の井上靖がいる。
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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「足立文太郎」の解説

足立文太郎 あだち-ぶんたろう

1865-1945 明治-昭和時代前期の解剖学者,人類学者。
慶応元年6月15日生まれ。三高教授をへて明治37年京都帝大医科大教授。昭和5年「日本人の動脈系統」で学士院恩賜賞。のち「日本人の静脈系統」を発表。軟部人類学の創設者として知られる。作家井上靖は娘婿(むこ)。昭和20年4月1日死去。81歳。伊豆(いず)田方郡(静岡県)出身。帝国大学卒。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「足立文太郎」の意味・わかりやすい解説

足立文太郎
あだちぶんたろう

[生]慶応1(1865).静岡
[没]1945.4.1. 京都
解剖学者,人類学者。 1894年東京大学卒業。京都大学教授。学士院会員。軟部人類学の開拓者で,筋,小児斑,汗腺,わきがなどについて人種的差異があることを強く主張した。特に日本人の脈管の研究は世界的に著名。学士院恩賜賞ならびにゲーテ賞受賞。

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