改訂新版 世界大百科事典 「身分制国家」の意味・わかりやすい解説
身分制国家 (みぶんせいこっか)
Ständestaat[ドイツ]
中世後期,ヨーロッパ各地に成立した国家形態で,特権をもつ諸身分(等族Stände,états)が,身分制議会を通じて,君主の権力行使を制約している点に,その特徴がある。等族制国家ともいう。フランスでは14~15世紀,ドイツの諸領邦ではだいたい15世紀から17世紀ごろにかけて現れたが,その他スペイン,北欧諸国,イタリアの諸君主国,ハンガリー,ポーランドなどの歴史にも,身分制国家の段階が認められる。ただイギリスの場合は,中世から近代まで議会が連続的に発展しているだけに,中世後期を身分制国家の概念でとらえることが難しい。また,東方正教圏に属しているバルカン諸国,東欧諸国やロシアには,この種の国家形態は認められない。
身分制国家は,君主権力の伸張に伴い,封建制度というパーソナルな結合関係に基づく統治が,官僚制による領域的な支配へと移行する過程で成立した。フランスのバヤージュbailliage,ドイツ諸領邦ではアムトAmtなどと呼ばれる,君主の地方行政管区の形成が,身分制議会召集の制度的な前提をなし,その意味で,この国家形態は,中世国家(封建国家)の末期段階というより,近代国家の初期段階とみなされる。この国家形態のもとでは,貴族,高級聖職者,自治都市など,局地的な支配権者たる諸身分が,まだ政治的な自立性を保持しているため,君主は諸身分の特権の尊重を繰り返し約束しなければ,その統治の正当性を主張できなかった。とりわけ財政の面で,君主はその統治に要する経費を,直轄領収入ないしは彼に認められた関税などの経常収入によってまかなうのが原則であり,国の緊急事態に際してのみ臨時の援助金を,そのつど身分制議会の承認を得て徴収できたにとどまる。諸身分は経済的援助や政治的助言と交換にその特権の拡大を図ったため,ドイツの諸領邦では権力の〈二元主義〉と呼ばれる状況さえ生まれた。絶対王政の成立によって身分制国家の体制は克服されることになる。
執筆者:成瀬 治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報