改訂新版 世界大百科事典 「封建国家」の意味・わかりやすい解説
封建国家 (ほうけんこっか)
Lehensstaat[ドイツ]
多数の独立権力が,国王を最高封主とする封建的主従関係の網の目を通じて,ピラミッド形に組織化されている国家。最も典型的な形でみられるのは,9世紀から13世紀までの西欧においてである。典型的な封建国家では,第1に国王の支配はその直属封臣だけに及び,国王と陪臣や一般人民との直結関係は存在しない。それゆえ統一的な行政は存在せず,国王をはじめとする各階層の封臣がそれぞれ各自の支配地域の行政を分担した。13世紀ころから,フランスでは国王が全国的規模で,ドイツではランデスヘルがラント単位で(ランデスヘルシャフト),陪臣以下一般人民との直結関係を回復し始めるが,これは権力集中過程の進行を,したがってまた封建国家の解体を意味する。
第2に,封建国家は〈人的結合国家〉であり,領域国家ではない。封建主従関係は個人対個人(封主対封臣)の人的結合関係であり,国家秩序が封建的に組織されるとき,この国家は個人対個人の結合関係の膨大な集積という形をとる。したがって,国家の地域的な範囲も,この人的な結合関係が拡大または縮小するのに伴って変動し,人的結合から離れた〈国家領土〉の観念はない。のみならず,ヨーロッパでは,1人の封臣が同時にイギリス,フランス,ドイツの国王や貴族に仕えるという現象もまれではないので,この場合には,この封臣の支配地域がどの国に属するのかも明瞭ではない。封建国家では,国内社会と国際社会の区別をつけがたいのが実相であった。
第3に封建国家は多数の独立権力が封建主従関係によって組織化された国家であるから,これらの独立権力相互間の勢力均衡関係が維持されてゆくことが,この種の国家が存立するための基本的な前提である。古来の慣習的秩序(すなわち既存の勢力均衡関係)が〈法〉とみなされたのはそのためであり,いかに強力な支配者でも,自分の意思でこの秩序を一方的に変更することは許されなかった。したがって,新法の制定という意味での〈立法〉という観念は存在しない。既存の秩序を変更することは,利害関係者たちの合意(契約)によってのみ可能であり,かくして〈契約〉が慣習と並んで第2の重要な法源になる。なにびとも自己の意思にもとづかないかぎり自分の権利を奪われることはなく,国家目的も,現存秩序の改革を含まず,現存秩序をそのまま維持することだけにつくされた。しかし現実には法はたえず変動した。けだし慣習法秩序の内容は常に多少ともあいまいであり,このあいまいさに乗じて実力が行使される余地が広範に残されていたからである。利害関係者たちの間で何が法であるかについて意見の一致がみられないときは,問題は実力の行使によって解決されざるをえなかった。しかもこの実力行使は,〈フェーデ権〉や〈神判〉の名で法自体によって公認されていたのである。封建国家は,観念の上ではきわめて安定した法治国でありながらも,現実には徹底した実力主義の国家であった。
→封建制度 →封建法
執筆者:世良 晃志郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報