(読み)ハイ(英語表記)dorsum
back

デジタル大辞泉 「背」の意味・読み・例文・類語

はい【背】[漢字項目]

[音]ハイ(漢) [訓]せ せい そむく そむける
学習漢字]6年
〈ハイ〉
胸や腹の反対側。せなか。「背泳背筋背嚢はいのう腹背
物の後ろ側。「背景背面光背後背こうはい紙背刀背
背中を向ける。背にする。「背水背走背日性はいじつせい
そむく。「背信背任背反違背向背離背面従腹背
(「はい」の代用字)道理に外れる。もとる。「背徳
〈せ(ぜ)〉「背筋背丈せたけ背中猫背
〈せい(ぜい)〉「背高せいたか上背うわぜい中肉中背
[名のり]しろ・のり
[難読]背負しょい子

せ【背/脊】

動物の胸腹部の反対側で、両肩の間から腰のあたりまでの部分。背中。「―に負う」「―を流す」「敵に―を見せる」
物の後ろ側。背面。「いすの―」
物の、盛り上がって連なっている部分。「山の―」「鞍の―」
頭頂から足元までの長さ。せたけ。身長。せい。「―が高い」
書物のとじ込みのある側の外面。書名・著者名などが記入される。「―に金文字を用いる」→小口2
[類語](1)(2背中せな後ろ背部はいぶ背面はいめん後背こうはいバック/(4せい背丈せたけたけ身丈みたけ身のたけ上背うわぜい身長

せ‐な【背/背中】

せ。せなか。「当て」
[類語]背中背部後ろあと後方しりえ後背こうはい背後はいご背面後面後部バック

せい【背/脊】

《「せ(背)」の音変化》身のたけ。せたけ。身長。「―の高い人」「―くらべ」
[類語]背丈せたけたけ身丈みたけ身のたけ上背うわぜい身長

そ【背】

せ。せなか。多く、他の語と複合して用いる。「びら(背)」「とも(背面)」
つ波―に脱きて」〈・上・歌謡〉

そ‐びら【背】

《「ひら」の意》せ。せなか。
「其二人に冷かな―を向けた結果に外ならなかった」〈漱石

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精選版 日本国語大辞典 「背」の意味・読み・例文・類語

せ【背・脊】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 動物の胸腹部の反対側で、首から尻(しり)までの部分。そびら。せなか。せな。
    1. [初出の実例]「乃ち良駒を見えつ。〈略〉影を睨(み)て高く鳴ゆ。軽く母(おも)の背(セ)を超ゆ」(出典:日本書紀(720)欽明七年七月(内閣文庫本室町時代訓))
    2. 「此衆は、目をかけて、せをたはめて」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)二)
  3. 一般に、物のうしろ側の部分。うら。かげの方。→背を向ける
    1. [初出の実例]「其の冠の背(セ)には漆羅(うるしのうすもの)を張りて」(出典:日本書紀(720)大化三年一二月(寛文版訓))
  4. 一般に物の、背中のように上になっている所。
    1. [初出の実例]「これを越えれば、もう直ぐだらうといふのを力にして、やッとのことで山の背まで達し」(出典:断橋(1911)〈岩野泡鳴〉一一)
  5. せい(背)
    1. [初出の実例]「丈(セ)の高いランプが」(出典:珊瑚集(1913)〈永井荷風訳〉年の行く夜)
  6. 書物のとじこんである側の外側の部分。表紙でくるんで、書名、作者名などが記入される。背表紙。
    1. [初出の実例]「書物の、背のクロオスの文字が〈略〉きらきら異彩を放つのを」(出典:婦系図(1907)〈泉鏡花〉前)
  7. ( 「…を背に」の形で ) 自分のうしろに位置させること。背後に置くこと。→背にする
    1. [初出の実例]「一頻りパッと染めた夕栄雲の薄れ行く西明を脊(セ)に、東の方太平洋の蒼然たる暮色を望んで」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋)

背の語誌

本来「せ」は外側、後方を意味する「そ」の転じたもので、身長とは結びつかなかった。ところが身体つき・体格を意味する「勢(せい)」が存在するところから、音韻上の近似によって、「せ(背)」と「せい(勢)」とが混同するようになったと思われる。


せい【背・脊】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「せい(勢)」と同源か ) からだの大きさ。体格。特に、頭頂から足先までの高さ。みのたけ。せたけ。身長。せ。比喩的に、広く山、建物、植物、書物など、物の高さもいう。
    1. [初出の実例]「信西が妻成範が母の紀の二位は、せいちいさき女房にてありけるが」(出典:愚管抄(1220)五)
    2. 「かんせうじゃうよにこえ、せいひきく御ざ有たるにより」(出典:虎明本狂言・右流左止(室町末‐近世初))

背の補助注記

「せ」の長音化とすれば「せえ」と表記すべきとも考えられるが、古くから「せい」と表記されており、「せい(勢)」から生じた用法か。


はい【背】

  1. 〘 名詞 〙
  2. せ。せなか。
    1. [初出の実例]「背(〈注〉ハイ)を撫し徐ろに問て曰く」(出典:花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉三)
    2. [その他の文献]〔孟子‐尽心・上〕
  3. うしろの部分。後面。〔詩経‐大雅・蕩〕

そ【背】

  1. 〘 名詞 〙 せ。せなか。「そびら(背━)」「そがい(背向)」「そとも(背面)」「そしし(膂宍)」「そむく(背)」など複合して用いることが多い。
    1. [初出の実例]「辺つ波 曾(ソ)に脱き棄(う)て」(出典:古事記(712)上・歌謡)

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普及版 字通 「背」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

[字音] ハイ
[字訓] せ・うしろ・そむく

[説文解字]

[字形] 形声
声符は北(ほく)。北に(はい)の声があり、北を・背の初文として用いる。〔説文〕四下に「脊(せき)なり」とあり、脊は身の背後にあたり、脊肉の象に従う。後ろより違背の意があり、背馳・背のように用いる。

[訓義]
1. せ、せなか。
2. うしろ、うら。
3. そむく、たがう、もとる、にげる。
4. 北と通じ、北堂、陰。

[古辞書の訓]
和名抄〕背 世奈加(せなか) 〔名義抄〕背 ウシロ・セナカ・ソムク・シリヘ・ヤブル・サル・セ・ソク

[語系]
背pukは北pkと声義近く、南に対してその背後にある意。bukはその動詞的な語で、倍bu(負)biuもその系統の語、動詞に用いる。

[熟語]
背依・背違・背陰・背恩・背悔・背郭・背汗・背棄・背毀・背郷・背景・背後・背子・背指・背書・背誦・背城・背心・背信・背水・背井・背誓・背脊・背憎・背誕・背馳・背地・背敵・背徳・背念・背・背・背畔・背負・背風・背文・背包・背盟・背面・背約・背理・背離・背流・背呂・背膂・背僂・背礼・背戻
[下接語]
違背・乖背・棄背・牛背・胸背・背・傴背・肩背・光背・向背・後背・項背・紙背・樹背・脊背・背・台背・笞背・刀背・悖背・反背・碑背・腹背・覆背・分背・鞭背・面背・痒背・離背・驢背

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改訂新版 世界大百科事典 「背」の意味・わかりやすい解説

背 (せ)
dorsum
back

背中ともいう。身体の背面のこと。動物がふつうの姿勢でいるときの体の上方の側をいうが,動物によってその姿勢は異なることが多いから,大多数の動物の例によって,形態的には次のように定義される。すなわち消化管に対して脊索動物では脊索・神経管がある側,その他の動物では神経索ではなくて心臓・主血管がある側である。消化管が体の前後軸にそって通っている左右相称性の動物では,一般に背腹の分化がはっきりしている。しかし,海綿動物,腔腸動物,棘皮(きよくひ)動物などの放射形の動物では,前後軸も背腹の区別も認め難く,体軸には口側-反口側の軸をとるのがふつうである。動物体の背側には,一般に殻や毛・とげなどの体を保護する構造がよりよく発達している場合が多い。

 魚類は一般に,背の正中線上に背びれを前後2枚をもつものが多い。この背びれは,魚類が両生類へ進化したとき,しりびれとともに消失した。魚類以外の脊椎動物では,背は一般に円みをおびた丘状のものだが,両生類,爬虫類にはいぼ状の突起をもつもの,正中線上にとさか状の突起をもつものがある。中生代の爬虫類には,2列の骨性の突起をもつものや,帆のような大きな突起を備えたものもあった。哺乳類では,クジラ類の多くに見られる1枚の背びれが唯一の特殊構造だが,これは骨格のない突起で,魚類の背びれと相同のものではなく,クジラ類だけに二次的に現れた新形質である。
執筆者:

ヒトではくび(頸部),むね(胸部),はら(腹部)の後面を縦に連ねた細長い範囲で,上は後頭骨の後面正中線上に突出している外後頭隆起の高さが限界であり,下は正中部では,肛門の後端にまで及ぶが,側方では腸骨の上のへり(腸骨稜)が境になっている。くびの後面をとくに〈うなじ(項)〉という。直立位では背面正中線上には縦に走る溝があるが,この溝は,子どものうなじではとくに深くなっていて,これを〈ぼんのくぼ(項窩(こうか))〉という。背中の皮膚をむくと,その下にはよく発達した筋肉が多数現れる。これらの筋肉は2系からなり,その一つは浅背筋,他は深背筋である。浅背筋は表層にあって,すべて肩甲骨と鎖骨についているから肩を動かす。そのうちとくに大きいのは僧帽筋と闊背(かつぱい)(広背)筋である。深背筋は上肢とは関係なく,体幹の骨格すなわち脊柱や肋骨を動かす。そのうち腰の脊柱の両側に縦に走っている筋群はよく発達して,腰を伸ばしたり曲げたりするのに重要な働きがあり,これを体幹直立筋という。背中には血管も神経も太いものは見られず,主として肋間動静脈の後枝と脊髄神経の後枝が分布している。
執筆者:

うなじから臀部(でんぶ)までを指す背の中央部分が背中で,人など直立する動物の体幹の後側部分である。四足獣の体幹の前には頭が,後部にはしりがあるが,人ではこれは上下になる。四足獣の体幹の下部は胸腹部,上部は背部で,人では前後になるのに,英語のbackが四足獣の背をも指すのは,比較する際の規準を人に置くからである。中国の陰陽説では背部が陽で胸腹部が陰であり,西欧占星術において太陽が背を支配するというのと似かよっている。

 一般に四足獣では胸腹部より背側に毛が多いが,人ではその逆に背部の方が少ないとアリストテレスは指摘する(《動物誌》)。彼の〈人相学〉によれば,背の肉づきが豊かで大きいのは霊魂が強固で,その証拠は雄であり,肉づきの貧弱な背をもつ者は霊魂も貧弱で,その証拠は雌である。また,肩がすぼまって背が著しく前かがみに曲がっているのは邪悪な性格のしるしであり,反対に馬のように反り返った背は傲慢(ごうまん)で思慮を欠くことを示すとして,通常の生理的湾曲をもった背に好ましい性格を対応させた。また,人にはかつて,3種類の性があり,男,女のほかに男女(おめ)(両性具有)がおり,そのいずれもが顔が二つ,耳が四つ,隠しどころが二つで,背中と側腹部だけの球形の軀幹(くかん)から4本ずつの手足が出た姿をしていたが,ゼウスの命でアポロンにより二つに分割されて,現在のような人間になったとプラトンの《饗宴(シュンポシオン)》にある。異形の背中の例は,中世の博物学的著作にも見え,頭がなくてその目,鼻,口が背中か胸についている部族の話(トマ・ド・カンタンプレ《万象論》)とか,イルカの双眼は背中にあるが口は腹にある(マイデンバハ《健康の園》)など荒唐無稽なものがある。

 会田雄次は,子どもの危険に際して親のとる行動と姿勢が欧米人と日本人とは異なると述べる(《日本人の意識構造》)。すなわち,欧米人の多くは子どもを背後にはねのけて,仁王立ちになって危険に直面するが,日本人は老若男女の別なく,子を抱きしめて背を向け,うずくまると。彼はさらにこれを敷衍(ふえん)して,危険に対する日本人の守備姿勢は,背を外部に向け,うつむき,内側を向いて守るという形をとるが,これは精神構造の形象化であること,また,つねに敵を背後に意識し,このため援助を求める際にも背後の保護を期待すると述べて,源義経の鵯越(ひよどりごえ)の例や,男または夫を〈背の君〉と称したことをあげている。本来,会見に後れる意の〈後見〉が,日本では未成年者などの保護や補佐の意味にもっぱら用いられていることも,これと関連があるかも知れない。

 〈背〉という漢字の〈月〉は肉で,〈北〉は人が背中を向け合わせて立つ姿を示すことから,〈背く〉の意となって,〈背徳〉や〈背任〉などの熟語が作られるのだが,歌舞伎では男女が背中を寄せ合って相愛を表現する。胸と腹とで接し合っていた古代ギリシアの男女(おめ)の伝説が,切り離された男と女とは互いに求め合い抱擁し合って原型にもどろうとすると述べているのとは,正反対の所作である。
(しり) → →
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「背」の意味・わかりやすい解説


動物の胸部と腹部の後面にあたる縦に長い部分で、俗に背中(せなか)、背部(はいぶ)ともよぶ。解剖学上でいう背の部分には脊柱(せきちゅう)が含まれるため、頸椎(けいつい)のある後頸部も背の部分に属するという説もあるが、一般には後頸部は別に項(こう)部(うなじ)とよんでいる。

 ヒトの場合、背の表面をみると、中央に縦に走る溝(みぞ)(後正中溝(こう))がある。後正中溝は、脊椎骨の棘(きょく)突起の配列に一致して走る溝で、その深さは個人差に富む。項部の下方では、この溝の位置に沿って突出した部分が認められる。これは第7頸椎の棘突起であるが、容易に皮下に触れることができるため、他の椎骨の順位の同定に役だっている。この突出部と肩の両端の隆起部(肩甲骨の肩峰の先端部)を結ぶ線を、背の上方の境と考えればよい。肩から首すじにかけてのなだらかな縁(へり)は僧帽筋の上縁によるものである。また、背の下方の境は、仙骨の外側縁と骨盤の後壁上縁(左右腸骨の腸骨稜(りょう))を結ぶ線と考えればよい。

 背の全面を解剖学的に区分すると、肩甲部、(左・右)肩甲上部、肩甲間部、(左・右)肩甲下部、脊柱部および腰部に区分される。背の皮膚は、全身の皮膚のなかではとくに厚く、汗腺(かんせん)、皮脂腺、毛包も多い。また、背の筋肉は大きいため、外表からも同定するのが容易である。後正中溝の両側の盛り上がりは脊柱起立筋群によるもので、これらの筋群は体の姿勢保持や運動に重要な働きをしている。なお、後正中溝の異常な彎曲(わんきょく)は、脊柱の異常彎曲を示すものとして、診断上たいせつなものである。

 脊椎動物の場合、背と中枢神経系(脳脊髄)の発生とは密接な関係にある。胎児(仔(し))の発生のきわめて初期には、外胚葉(がいはいよう)という組織が中枢神経系形成の基になる神経管を形成するが、この際、同時にこの外胚葉から背部の外皮が形成される。動物胚を用いて、実験的に、将来は腹部となるべき部位に、脊髄が発生するはずの組織を移植すると、その移植部分は背へと変化する。

[嶋井和世]

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