軽視されていた脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎

六訂版 家庭医学大全科 の解説

軽視されていた脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

 ふた昔前の日本では「脂肪肝良性で可逆性の変化だから何の心配もいらない」というのが常識でした。では、どうして今日、脂肪肝は諸悪根元と見なされているのでしょうか。

 飽食の時代を迎えた今日では、脂肪肝は肥満糖尿病脂質異常症にしばしば合併するからです。肥満や生活習慣病、インスリン抵抗性という言葉が日常用語となるほどまでに、この20年間で日本人を取り巻く社会環境は大きく変化したのです。大量飲酒者は約240万人いるといわれていますが、そのほとんどが脂肪肝をもっています。そして、飲酒を続けると徐々に肝硬変(かんこうへん)に進行するのです。

 脂肪肝が諸悪の根元とみなされるようになったもうひとつの理由は、高度の脂肪肝の人は、お酒を飲まなくても、しばしばアルコール性肝障害に極めて類似する重い肝臓病を起こすことが知られてきたからです。ひとたび脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を来すと、10年で2割程度が肝硬変に進むといわれています。今日では成人の1%がNASHを患っていると言われていますので、今日の日本では、生活習慣病あるいはNASHの予備軍として、脂肪肝は無視できない存在になったのです。

 超音波検査検出可能な程度の「肝臓の脂肪化」は成人の10人のうち3人に見つかります。しかし、この人たちがすべて危険というわけではありません。やはり、肥満が背景にある場合に前記のような病気になりやすいと考えられます。

 肥満の程度を表すにはBMIという指標体重㎏÷[身長(m)の2乗])が用いられることが多く、日本ではBMIが25を超えたものを肥満と定義しています。予防医学観点からは、予後が良好な「肝臓の脂肪化」と生活習慣病のリスクになる「脂肪肝」とを明確に区別し、症例個々の病態理解に根ざした生活指導や治療が求められています。

 では、NASHを考えるうえで、具体的にどこまでを「肝臓の脂肪化」と呼び、どこからを「脂肪肝」と考えるのが適当でしょうか。

 このためには、脂肪肝の定義が必要になります。しかし、脂肪肝にはつい最近まで統一された定義がありませんでした。歴史的に提唱されてきたのは、脂肪肝とは肝細胞のおおむね1割以上、3割以上、あるいは5割以上に脂肪滴(しぼうてき)がみられるというものでした。このように、誰も脂肪肝を重要な病気とは考えてこなかったのです。

 検診で脂肪肝といわれたら、運動を始めて体重を3㎏程度落とすようにしてはいかがでしょうか。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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