日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業倉庫」の意味・わかりやすい解説
農業倉庫
のうぎょうそうこ
穀物をはじめとする農産物の保管を目的とする倉庫が農業倉庫である。ただし日本においては、農業倉庫業法(大正6年法律第15号)に基づいて設立され、主として農業協同組合が生産者の穀物、繭、木炭などを保管する目的で経営する特殊な倉庫を農業倉庫とよぶ場合が多い。明治以降、米穀市場の展開に対応して、販売米の格付検査と共同保管、米券の発行と金融を行う米券倉庫の設置がみられたが、それは地主、商人の利用が主であった。1914~1915年(大正3~4)の米価暴落を契機に、中小農民の救済と米穀市場の安定を図るため、米穀政策の一環として、1917年に農業倉庫業法が制定された。同法では農業倉庫の公益性が強くうたわれ、その事業は営利を目的としてはならないこと、事業主体は産業組合などに限ることなどが定められ、また事業のために政府から低利資金の融資などの便宜を与えられることとなった。その後産業組合による農業倉庫の設立が進み、その販売事業の発展に役割を果たしたが、1921年の米穀法以降政府が米穀市場に介入するようになると、政府指定倉庫として政府管理米の保管機能を担うようになった。さらに1942年(昭和17)の食糧管理法の施行以後は、政府の食糧政策遂行のための物的・制度的基盤としての役割を決定的に強めることとなった。第二次世界大戦後も統制的な食糧管理制度のもとで、農業倉庫は引き続き米流通に重要な役割を果たした。しかし1970年代以降、貯蔵機能だけでなく、もみの乾燥・調製機能をあわせもつカントリーエレベーターの普及など米流通技術が変化したほか、食管法から1994年(平成6)に制定された食糧法(正式名称は「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」。平成6年法律第113号)への移行と流通自由化などによって、農業倉庫の役割も変わりつつある。
[増田佳昭]