農業団体(読み)のうぎょうだんたい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業団体」の意味・わかりやすい解説

農業団体
のうぎょうだんたい

農民が自己の社会的、経済的地位の向上を目的として組織する団体資本主義発達に伴って、社会的弱者となってきた農民が、団結の力と経済の集積によって資本の力に対抗しようというのがその発生の契機である。欧米の農業団体はそうした農民の自主的な運動としての性格が強く、19世紀末のアメリカにおけるグレンジGrange、フランスの農業組合、ドイツの農業者同盟などの伝統を引いて、今日でも政府農業政策とは一線を画して活動している。

 これに対して日本では、大正期に始まる農民組合などのように自主的な運動によってつくられた団体もあるが、政府が農業政策の浸透の手段として上から組織したものが多い。「農会法」(1899)に基づく農会、「産業組合法」(1900)に基づく産業組合は、第二次世界大戦前の日本における代表的な農業団体である。

 第二次世界大戦後も、農業団体の概念は法律に基づいて設置された団体をさし、自主的、任意的な農民の団体とは区別するのが普通である。このような意味での農業団体としては、次の五つが現在活動している主要なものである。

(1)農業協同組合 「農業協同組合法」(1947)に基づき、農民を組合員とする協同組合で、指導、経済、信用、共済、医療など多彩な事業を行っている。

(2)農業委員会 「農業委員会等に関する法律」(1951)に基づく行政委員会で、農用地の売買貸借の許認可など、農地行政に対して農民の意見を反映する活動を行っている。

(3)土地改良区 「土地改良法」(1949)に基づいて設立される農地地権者の団体で、国または自治体の補助を受けて土地改良事業の実施、水利施設の管理などを行う。

(4)農業共済組合 「農業保険法」(1947)に基づいて、農畜産物の災害等による損失に対する保険事業(農業共済事業、農業経営収入保険事業)を行う。

(5)森林組合 「森林組合法」(1978)に基づく林業者の協同組合であるが、組合員の大部分が事実上農民なので農業団体に含めている。

 戦後のわが国の農業団体は、農地改革によって生まれた自作農の保護という共通目的をもっており、農業政策の遂行に不可欠であるだけでなく、農民の意見を政策へ反映するためのパイプとしての役割も担っている。こうした機能を正常に発揮するには、それぞれの団体における民主的運営と、団体相互の密接な連携とが必要とされる。

[太田原高昭]

『沢村康著『農業団体論』(1936・日本評論社)』『宮沢幸則著『戦後農政と農業法』(1981・農林統計協会)』『農林水産省編『日本の農業団体と農業協同組合』(1986・御茶の水書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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