日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業共済制度」の意味・わかりやすい解説
農業共済制度
のうぎょうきょうさいせいど
農業保険法(昭和22年法律第185号。旧法名は農業災害補償法)に基づき、農業者が自然災害や不慮の事故によって受けることのある損失を補填(ほてん)する共済事業を確立して農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的にした政府の農業政策の柱をなす公的な補償制度。
農業共済事業は、市区町村区域ごとに農業者によって組織される農業共済組合や、複数の農業共済組合を組合員とする都道府県農業共済組合連合会など、120組合・連合会等(組合がなく市町村の役所で農業共済事業を取り扱っている所、一部事務組合、広域農業共済組合を含む。農林水産省「農業共済の実績」2019年4月時点の数値)を運営主体とし、農業者が掛金を出し合い共同準備財産を形成し、被災した場合に共済金を支払う。なお、農業共済組合や都道府県農業共済組合連合会は「NOSAI」を名称に冠している。
農業共済制度は政府(農業再保険勘定)による農業災害対策の一環として実施されているので、農業者の支払う共済掛金に対し政府から補助(原則2分の1)が行われる。また、農業者への共済金支払いが多額となるような大規模災害に備えて、農業共済組合や都道府県農業共済組合連合会に対し政府は(再)保険の引受けを措置するとともに、農業共済団体の役職員の給与を含め事務費用に対して交付金を支給する。
農業共済には農作物共済、畑作物共済、果樹共済、園芸施設共済、家畜共済、建物共済および農機具共済の7種類がある。そのうち建物共済と農機具共済は共済掛金・事務費補助および国の再保険措置がなく任意加入制である。
農作物共済(水稲、陸稲、麦を対象)、畑作物共済(バレイショ、大豆、インゲンマメ、タマネギ、茶、サトウキビ、蚕繭(さんけん)などを対象)および果樹共済(温州(うんしゅう)ミカン、ナツミカンなどの柑橘(かんきつ)類、リンゴ、ブドウ、ナシ、モモなどを対象。収穫共済と樹体共済があり、とくに収穫共済の場合)は、風水害や干害、冷害、雪害等の気象上の原因に加え、地震・噴火による災害、火災、病虫害、鳥獣害などにより農作物の収穫量の減少が発生した場合、一定の基準にしたがって共済金を支払う。なお、農作物共済では一定規模以上の耕作を行う農業者の当然加入制が平成31年産から廃止され、農業共済か農業経営収入保険のいずれかを選択することができるようになった(どちらも任意加入)。
農作物共済、畑作物共済および果樹共済の引受方式(農業者ごとの平年の収穫量や平均的生産金額に基づき加入時に選択する補償方式)にはいくつか種類があり選択できるが、農業災害補償法から改正された農業保険法の施行(2018)により、一部の引受方式の廃止、新設が行われた。また、すべての農業共済組合で共済掛金は農業者ごとの被害発生状況(共済金受取り実績)に応じた危険段階別掛金率を導入し、無事戻し(一定の条件のもとに共済金支払いの有無や支払共済金・受け取った無事戻し金の合計額と農業者の負担掛金との割合により農業者に払い戻される金額)は廃止された。
園芸施設共済は特定園芸施設(ハウス本体・被覆材)・附帯施設(冷暖房設備、電気設備など)と施設内で栽培する農作物を補償の対象とする。施設の資産価値の一定割合の範囲で自然災害や火災、破裂・爆発、航空機からの物体の落下などによる損害に対し比例填補の原則(次式)に基づき共済金を支払う。
共済金=損害額×(共済金額/共済価額)
家畜共済は牛・馬・ブタが死亡、廃用になった場合に補償する死亡廃用共済と、病気・けがの診療費を補償する疾病傷害共済に分離して加入することができるようになった。
また、任意共済の建物共済は建物や付属設備(電気、冷暖房設備など)、門・塀、収容家財・農機具などの火災、落雷、破裂・爆発、外部からの物体の落下・衝突、排水設備の事故による漏水・水ぬれ、盗難による汚損・毀損(きそん)、騒乱および集団行動に伴う暴力行為による損害などを補償する。火災共済と総合共済があり、総合共済は自然災害による損害も補償する。農機具共済には未使用かつ一定金額以上の農機具の格納中や稼働中の火災や自然災害などによる損害を補償する損害共済と、買い換え更新資金積立を目的とした長期の更新共済がある。
なお、第二次世界大戦前の農業保険法(昭和13年法律第21号。現行法の前身)の下での農会(農会法〈大正11年法律第40号〉に基づく農業団体で、地主、自作農、小作農により組織。「農会」の項を参照)でも建物共済と農機具共済は任意加入制で扱われていた。
[押尾直志 2020年6月23日]