漢文を訓読する場合に,語序が中国語と日本語とでは相違するので,中国語の語序を日本語の語序に合わせるため,読む順序を示す記号。,一・二・三,上・中・下,甲・乙・丙,天・地・人などを用い,漢字の左下に小さく記す。1字のみの順序を反倒するを雁(かりがね)点という。返り点は平安時代の初期から行われているが,当初のそれは,反倒して訓(よ)む文字の左下に記すだけで,どこへ返って訓むかを明らかに示さなかった場合もある。一般に複雑な返り点は用いられずに経過したが,それは,〈をこと点〉が併用されていたので,相互に補い合って訓読するようになっていたためもあるらしい。現在行われるような複雑な返り点は,江戸時代になって,漢文の訓読が室町時代までのような伝承的な固定した訓み方を破り,新しい訓み方をする学風が起こってから用いられるようになったものである。室町時代の《桂庵和尚家法倭点》に古い返り点に関する記述がある。
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執筆者:大野 晋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
漢文訓読において、漢文の字の順序が日本語と相違する場合、原文の字順とは逆に下から上へ返って読むこと(返読)を示す符号。返読符ともいう。現在では次のようなものがある。
(1)レ点(雁点(かりがねてん))―下の字からただちに上の字に返る際に用いる。
(2)一・二点―2字以上を隔てて下から上へ返るのに用い、必要に応じて三・四なども使う。
(3)上(・中)・下点―一・二点を中に挟んで返る際に用いる。
(4)甲・乙・丙・丁点―(3)で不足のときに用いる。
(5)天・地・人点―(4)でも不足の際に使う。
返り点は、わが国で訓点を記入するようになった当初から実例があり、最古の例は『華厳経刊定記(けごんきょうかんじょうき)』に記入された788年(延暦7)のものである。また、雁点は12世紀末から使用され始め、その形態は時代により変遷があった。
[月本雅幸]
『小林芳規著「表記法の変遷」(『現代作文講座6 文字と表記』所収・1977・明治書院)』
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…漢文を日本語の文章構造に従ってよみ下すために,原文の行間や字間につける文字や符号。返点(かえりてん)すなわち,レ(かりがね),一・二・三・四,上・中・下,甲・乙・丙などの符号,およびヲコト点,朱引(しゆびき)などをもちいて,漢字の音読・訓読の区別,字音・訓・よむ順序・句の切り方などを示すもの。傍に片仮名を併用することが多い。奈良時代に訓点はすでに行われたと推測されるが,奈良時代末に訓注を万葉仮名でつけた例が正倉院文書にある。…
※「返り点」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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