古代・中世における年貢・公事等の受取状のこと。平安時代に,東大寺,東寺のような寺院において,所定の郡郷から送進されてきた物資を担当機関が検納し,領収したことを知らせるため,送り主の郡郷へ返した文書。たとえば東大寺大仏供白米の例では,国衙が白米供給の郡郷を指定し,郡郷がさらに割り当てた所進者から当年分の白米が送進されると,所進の郡郷にたいして返抄が返された。その形式は東大寺白米納所が所進郡郷にあて,収納にあたる東大寺三綱が署名した下文の形であり,その料紙はふつう切紙(きりがみ)であった。鎌倉・南北朝時代には,東寺の場合,寺領太良(たら)荘から東寺へ納入される年貢について,たとえば〈閏7月16日送文,同21日公文所返抄〉とあるように,年貢収納の受取状として東寺供僧公文所から返抄が出されていた。近世の返抄は,貫首新任の儀式において,吉書(きつしよ)に用いられたものである。
執筆者:橋本 初子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代~中世の受取書または領収書。本来は公式令(くしきりょう)に規定されたように,官司間の文書・物品・人物などの送納に際し受領側が発行するもの。8世紀後半から,四度公文(よどのくもん)に代表される諸国からの物品納入をともなう帳簿の監査の結果発行される領収書の意味が中心となる。官司間にかぎらず封物納付に際しても発行された。9世紀以後の律令財政変質のもと,一部分納入を証する返納返抄,日収や数年分をまとめた惣返抄などが出現した。10~11世紀には,調庸・封物納入の請負業者に発行される手形的要素もでてきて,売買の対象となる例もあった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
古文書の一様式で、平安時代以降に、文書・年貢・金銭などの受取の証拠として作成された文書。当初は公文書の受領証としても使われていたが、のちには荘園(しょうえん)・公領から送られる貢租の受取状のみをさすようになった。中世以降には請取状、所納(しょのう)状と称されるようになる。受領報告を目的とするために一時的な効力があればよく、杉原紙(すぎはらがみ)を細長く切るか小さな切紙を使って作成されることが多い。
[長塚 孝]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…受領の事実とそれにともなって発生した諸義務の順守を確言する意味があり,文書様式上は請文から分化したものといえる。この点で返抄(律令制において官司の発給する行政的領収証を本来の形とした)とは区別される。ただし,返抄が中世的な年貢公事の収納証として,請取状と紛らわしい〈所納如件〉などという文言・形式をとる場合も多く,この区別はあいまいになっていく。…
※「返抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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